第84回「ゾンビを生みだしたのは誰?」

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第84回「ゾンビを生みだしたのは誰?


安田

10月に助成金がなくなるんですか?

久野

助成金がなくなるというより、緊急対応期間が終了する予定でしたが、つい先日、12月末までの延長が決まりました。

安田
緊急対応期間?
久野
本来、雇用調整助成金っていうのは、事前に計画書出したりすごく大変なんですよ。リーマンのときや東日本大震災のときもそうだったんですけど。
安田

今回は違うんですか?

久野
今回、緊急対応期間は計画書を出さなくていいよと。あと、マックスで100日までしか出さない助成金なんですけど、緊急対応期間中は「無制限に休んでもいい」という感じになってて。
安田
無制限に出し続ける方針ってことですか?国は。
久野
いえ、どっかで終わるはずです。緊急対応期間なので、いったんは終わらせなきゃいけない。
安田
終わったらどうなるんですか?
久野
そこからプラス100日っていう戦いになる。 12月末で終わって、1、2、3の3カ月って感じですね。
安田

ちなみに助成金がストップになったら、一気に解雇は増えますか?

久野
増えると思います。
安田
でも、法的には駄目なんでしょ?解雇は。
久野
駄目ですけど、経営が成り立たなかったらもうやるしかない。整理解雇の4要件というのがありまして。
安田

いつもおっしゃってるやつですね。

久野
はい。基本的には解雇回避努力がいるんです。あと、解雇に対して合理性があるかどうか。要は経営が厳しくて、解雇回避するためにいろいろ手を尽くしたんだけど、「どう考えても駄目だ」みたいな。
安田
今回はまさにそんな感じですよ。
久野

人員選定が妥当かどうかも確認しながら進めていく。それが整理解雇の要件。つまり助成金には「整理解雇を完全に否定する」という意味がありまして。

安田

完全に否定するという意味?

久野
雇用調整助成金出してるんだから「人員を切る相当性がない」というのが、国の施策なんです。
安田

でも社会保険料はかかりますよね。

久野
社会保険料はかかります。
安田
結構な金額ですけど。ボディーブローのように効いてきませんか。
久野

人件費の3割ぐらいはキャッシュで出ていきますからね。

安田

そうですよ。なぜそこは補填してくれないんですか?

久野
もう限界なんじゃないですか、国も。それに社会保険って財源も違うし、長期的な資金源でもあるから。そこまではちょっと手をつけられない。
安田
休んでる間ぐらい、国が負担すりゃいいのに。
久野

最終的には同じ財布ですからね。

安田
そうですよ。
久野
でも社会保険って、絶対に免除がなくて猶予ですね。要は待ってくれるけど「どっかで必ず払え」っていう。でも待ったら払えないですよ、普通は。
安田
苦しいから待ってもらうわけですもんね。厳しい会社がどんどん増えてますよ。
久野
私もそういう実感ですね。
安田

外食店や旅行業はもちろん、普通の企業さんでもかなり影響出てきます。

久野
5月ぐらいに国がじゃぶじゃぶにキャッシュを出してるじゃないですか。
安田

はい。かなり出しましたよね。

久野
だからいったんはお金がある。あと、ずっと人不足だったので、溜まってた仕事をさばいてた。でも新しい受注がもう全然ない。来年の仕事がなくなってる。
安田

やっぱり経済を動かすしかないですよ。

久野
それは間違いないですね。
安田

でも経済が動き出したら、助成金は止まるんですよね?

久野

止めざるを得ないでしょう。

安田

そうなったときに解雇が始まる可能性は高いです。

久野

そうですね。大企業がこれだけの大赤字で、GDPが20%以上も減ってる中で、中小企業にダメージがないわけない。

安田

失業率はどのぐらいまで上がると予想してますか?

久野
5%とかまでいくんじゃないですか。
安田

そんなもんで済みますかね。アメリカなんて20%とも言われてますけど。

久野

5%じゃ足りないですか(笑)

安田

10%ぐらいいきませんか?

久野

10%っていったら500万人ってことですよ。

安田

それぐらい失業者が出ても全然おかしくないと思いますけど。

久野
急激にそこまではできないってのがあります。
安田
急激に何ができないんですか。
久野

解雇ができない。すごいプロセスを踏まないとやらせてもらえないので。会社がつぶれれば一気に吐き出てくるんですけど。

安田

業績がとことん悪くなったら、つぶれなくても解雇せざるを得ないです。そもそも解雇しなくても給料が払えないですよ。

久野
払えないですよね。そこまでいったら。
安田

それでも「払え」ってことなら、少なくとも貸付はやらざる得ない。まあ単なる延命ですけど。

久野
リーマン終わった後はやってましたよね。モラトリアム法案とか。
安田

その結果「ゾンビ企業を生かしてどうすんだ」って今だに言われてるわけで。まあゾンビ企業があるおかげで「ゾンビ人間」も生き延びれるわけですけど。

久野

なるほど。ゾンビが働いてるから、ゾンビ企業だと(笑)

安田
もちろんゾンビじゃない人もいるんでしょうけど。誰がゾンビ人間になってるのか、1回はっきりさせたほうがいいと思います。
久野

じつはアメリカって「会社嫌いな人」が2割しかいないんですよ。

安田

嫌だったら辞めますもんね。

久野
そうなんですよ。日本人って8割近くが会社のことを嫌らしいです。
安田
そんなに!だったら辞めればいいのに。
久野
我慢して働いてる人が大勢いる。そう考えたら、いったんきれいにしたほうがいいかもしれないです。
安田

絶対そうですよ。今回のコロナが大チャンスじゃないですか。

久野

苦しいのに経営者もめちゃくちゃ文句言われて。「こんな会社で働きたくない」とか。

安田

社会保険料まで払わされてですよ。かわいそうすぎます。

久野

自宅待機っていっても、家でゲームやってるかもしれないし。

安田

銀行がいくらお金を貸し付けたって、最終的には社長の借金じゃないですか。

久野
経営者は個人補償してますから。
安田

社長が社員の給料を肩代わりしてるようなもんですよ。

久野

そうですね。社員の生活を社長に個人保証させてる。

安田

その事実をもっと真剣に受け止めたほうがいいです。この国は労働者に甘い分、ぜんぶ経営者にそれを被らせてる。異常ですよ。



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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