教員の再雇用ルールが変わったみたいです。懲戒解雇になったら官報に載るって。
はい。マニアックな話ですけど。
マニアックですか?わいせつ教師が懲戒解雇になっても再雇用されるなんて。あってはならない話ですよ。
そうですね。
今後は「解雇理由をちゃんと記載する」ということになって。現場からは「差別につながる」という反論もあるらしいですけど。
そういう声もありますけど多くの先生は賛成じゃないですか。
私も親の立場からしたら「わいせつ前科がある人なんて、二度と先生やらせるなよ」って思っちゃいます。
当然そうなりますよ。
労働法は「社員を守る方」に偏ってますけど。学校に関しては「子どもを守る方」に寄せてほしいです。
この件に関しては、もう振り切って「やる」ってことになってますから。
ようやくという感じで。なぜ今までそうなってなかったのか。
日本は「人は変われるんだ」という前提で法律がつくられてますから。
人は変われる?そうですかね。
だから前科も基本的には勝手に調べられない。
たとえば私は会社をつぶしてますよね。
はい。
民事再生と自己破産をして。その後10年ぐらい銀行はお金を貸してくれなかったです。失敗に寛容とは思えないですけど。
それは銀行の対応ですね。法律は基本的に再生を目的として作られてます。
なるほど。
たとえばアメリカだったら、子供犯罪の前科がある人にはGPSが付けられます。
日本もそれぐらいやってほしいですけど。
子どもへの性犯罪って繰り返す可能性がありますからね。
そうですよ。寛大とかなんとか以前の問題です。
本当は幼稚園とか学習塾にも公開したほうがいいんですけど。
日本って、そういうところが甘いですよね。死刑制度がある割には、ものすごく罪が軽かったりするじゃないですか。
そうですね。
「こんな犯罪やった人を数年で出しちゃっていいのか?」みたいな。実際そういう人がまた再犯したりもするわけで。
そこは議論が必要なところです。
量刑を重くするのに反対する人がいるんですか。
死刑制度はそうですね。
死刑制度はちょっとまた別の問題ですけど。
根っこは同じです。「右か左か」みたいな議論が一番難しくて。真ん中にいる人ってあんまり主張しないので。
真ん中?
「死刑は絶対にダメだ」って人と、「絶対に死刑にするべきだ」って人ばかりでしょ。
確かに。
白黒に分かれてるように見えるんですけど、大多数の人は真ん中なんです。だけどそれが反映されづらい。
なぜ反映されないんですか。
ケースバイケースという発想にならないんです。変な平等意識みたいなのが働いて。
「ひどい虐待を受けて親を殺した」というケースもあれば、「猟奇的にただ殺したい」というケースもあるわけで。
そうなんですけど。
「1人だったから死刑にならない」とか「2人以上殺したから死刑」だとか。前例に倣ってるだけですよね。それが平等ってことですか。
法律って、変えた瞬間にデメリットがたくさん出てくるんですよ。それに対して耳を傾けたら、もう変えられなくなる。解雇に関してもそう。
じゃあ今回の「懲戒解雇の理由を記載する」という改訂は凄いことだと。
そう思います。
現場では「反対の声が大きい」って書いてましたけど。
反対の声が大きいように見えるんです。でも多くの人は、どっちでもいいと思ってる。メディアが極端にフォーカスしてるだけ。
ほんと日本のメディアってろくな仕事しないですね。
はい。メディアが煽るからあたかも問題になってるように見える。だけど現場では問題になってない。
現場の先生だって、そんな人と一緒にされたくないはず。
クリーンな人は「そんなの当たり前だよね」と思ってます。
絶対そうですよね。
それを人権問題に置き換えてメディアが報道するのが問題。でもそれを「問題だ」って言うと叩かれちゃう。だから言えない。
ちなみに解雇と懲戒解雇ってどう違うんですか?
普通解雇は労働基準法に照らして、たとえば遅刻が多いとか、会社に来ないとか。あと、お金を盗んだとか。
それでも懲戒解雇にならないんですか?
懲戒解雇は、会社が独自に就業規則上定めたものをいいます。
え!そうなんですか。
だから重なってる部分はあるんです。
じゃあ懲戒解雇は会社によって違う?
会社によって違います。ただ労働法が「社会通念上相当で合理的な理由がないと解雇できない」となってるので。懲戒解雇もみんな似てくるんです。
へぇ~。
たとえば「遅刻2回したらクビ」って書いあっても、それが世間で通らないと就業規則に書いてあってもダメ。
なるほど。
通る内容にしていこうって話になると、みんな似た感じになる。社労士の私が言うのもなんですけど、プロがつくれば同じような就業規則になります。
懲戒解雇のほうが「罪が重そう」ってイメージです。その後の人生に悪影響を与えそうな気がする。
一昔前は元の会社に電話して「この人ってどういう理由で辞めましたか?」って聞いてましたよね。
今は聞けないですけど。
聞けないし、言えません。だから今は従業員も解雇を恐れてないです。会社としてもできるだけ解雇と言いたくない。
それはなぜ?
あとから「不当解雇だ」ってお金を取られるケースもあるので。
なるほど。
だから履歴書に「自己都合」って書いちゃったら誰もわからない。いまは社会的制裁がきわめて低い気がします。
結果的に懲戒解雇に近いような人も普通に転職活動してると。
本当は良くないんですけど。会社も変に揉めたくないので。そーっと切り離していきたいわけです。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。