第138回 ビジョンが持てない仕組み

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第138回「ビジョンが持てない仕組み」


安田

戸建て住宅の太陽光パネルが義務化されるとか。

久野

いま議論が行われてますね。

安田

全住宅の「60%以上には付けさせる」みたいに言ってます。

久野

はい。

安田

だけど付けるほうからすると電力の買い取りも安くなって。パネルが壊れたら修理代もいるし。正直、採算が取れないと思います。

久野

国としたら二酸化炭素量の排出目標もありますから。やらせたいんでしょう。

安田

今回のコロナもそうですけど、国民にメリットのないものを「命令してやらせる」って無理がありますよ。

久野

ほんと、そうですね。

安田

中国だったらトップダウンで実現するでしょうけど。さすがに日本では無理じゃないですか。

久野

戦略がなさすぎるんですよ。たとえば電気はこれからもっと必要になってくる。そうすると再生エネルギーって話になると思うんです。

安田

まあそうなりますよね。

久野

電気自動車を普及させるにも、もっと電気をつくらなきゃいけない。となると原子力とかも真剣に考えなきゃいけないんです。

安田

原子力発電ですか。

久野

はい。だけど原子力は票が取れないじゃないですか。

安田

イメージ悪いですもんね。

久野

だから聞こえのいい太陽光パネルを「取りあえず義務化してみるか」「ついでに家も売れるし」となってしまう。

安田

日本人はマイホームを持つのが大好きだから。

久野

はい。

安田

これって今後も続くと思いますか。

久野

普通に考えたら、家を建てるのってすごく効率が悪いんです。

安田

ですよね。建ってる家を借りて住むほうが、ぜんぜん効率がいい。

久野

3軒に1軒が空き家になると言われてる世の中ですから。

安田

でも買いたいんでしょうね。

久野

新築で買って、太陽光パネルも付けさせられて、高いローン組まされて。電気代は無料になるかもしれないけど、太陽光パネルの借金を払い続けることになる。

安田

どうやって義務化するんでしょう。ハウスメーカーに義務化するんですかね。付けずに売っちゃいけないみたいな。

久野

基本的には家をつくる側に義務化して、買う側は強制的にそうなってしまうってことだと思います。車の自動ブレーキと似てますよね、発想は。

安田

なるほど。

久野

「新車には自動ブレーキを付けろ」となって、メーカーもあれで単価アップになりました。

安田

「特定の企業に肩入れしてるんじゃないか」って、うがった見方をしちゃいます。

久野

その読みは正しいと思います。

安田

え!正しいんですか?

久野

たとえば京セラが太陽光パネルを作ってますと。それをガンと増やせばイノベーションが起きて、安いものが作れるようになって、海外に出せるだろうっていう。

安田

なるほど。そういう発想ですか。

久野

それで「経済が良くなるかもね」ぐらいの戦略しかない。本来はこれから伸びる分野を見つけて、たとえば「宇宙に投資するぞ」とか考えなくちゃいけない。

安田

確かに。

久野

既存のメーカーの「ここ伸ばすか」みたいな発想しかない。

安田

それは票目当てですか?えこひいきすることで大量の票が返ってくるとか。あるいはバックマージンもらってるとか。

久野

いえ。単に戦略がないだけです。

安田

なんと。

久野

たとえば中国は「将来勝つために」という前提でやってる。でも日本は何も思想がないから、ふらっと来た営業マンに乗せられちゃう。

安田

ふらっと来た営業マン?

久野

たとえばレジ袋有料化みたいな。「なんか良さそうだね」って感じで通っちゃう。

安田

それは相手によるんじゃないですか。大きな会社の提案じゃなきゃ通らないでしょ。

久野

結果的にそうなってますね。

安田

やっぱり癒着じゃないですか。

久野

そういうわけじゃないと思います。戦略がないから、何となく「こっちが良さそうだね」みたいな感じ。

安田

なぜ戦略を立てないんですか。

久野

立てられないんですよ。たとえばグリーンというキーワードに沿って、数字目標だけを挙げさせられる。だけどどう達成するか指針を発表しないので、何も決められない。

安田

なぜそんなことになっちゃうんですか。

久野

日本には大きなグランドデザインがないから。

安田

それを作るのが政治家の仕事ですけど。

久野

日本の仕組みは政治がつくってるように見えて、ほとんど官僚がつくってます。だから細かい指針はあっても大きなビジョンがない。

安田

アメリカは大統領が変わったら方針が変わりますもんね。

久野

そうです。でも日本ってそんなに変わらないじゃないですか。

安田

変えようがないっていうか。官僚がそっぽ向いちゃったら何もできないし。前の民主党のときもそうでした。

久野

どっちが上でどっちが下か、よく分からない組織になってます。部下に「これやりたいけどいいですか」って聞いてる会社みたい。

安田

官僚って「政治家のイエスマン」みたいに見えますけど。何かあったらトカゲのしっぽ切り的に責任取らされるし。人事権だって大臣が持ってるじゃないですか。

久野

情報が集まってくるのは官僚なので。政治家に伝える情報を絞るとか、いろんなことをされちゃう。

安田

なるほど。

久野

変な均衡関係が出来上がってますよ。

安田

官僚は何を基準に仕組みを考えるんですか。たとえば日本の教育は「遅れてる」と言われ続けてますよね。

久野

はい。

安田

それでセンター試験をいきなり筆記式に変えようとしたり。現場の先生は誰一人できるとは思ってないのに、なぜあんな間の抜けたことになっちゃうのか。

久野

太陽光パネルと一緒だと思います。部分最適だけで考えちゃうんです。組織が縦割りなので。

安田

小手先になってしまうと。

久野

はい。本当は小学生の教育から変えないといけないんです。だけど「考える力が見えないから試験を変えよう」みたいな小手先になってしまう。

安田

なるほど。部分最適はできるけど全体最適はできないと。

久野

できない。「一応これをやったでしょ」みたいなものだけ定期的に出してくる。

安田

選挙自体が部分最適の集まりですもんね。地方の利益を優先する人が選ばれちゃうし。

久野

それで選ばれた人たちが全体のトップを選ぶ。だから部分最適の集合体になります。

安田

やっぱり直接選挙で首相を選ぶしかないですよ。

久野

憲法の改正には政治家の3分の2以上の票が必要なんです。だから原理的には実現不可能ですね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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