第254回 雇用保険改正の意図を読め!

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第254回「雇用保険改正の意図を読め!」


安田

雇用保険が改正予定で10時間以上の勤務をすると雇用保険に加入できると。これは加入してもいいよってことですか。それとも強制加入ですか。

久野

強制ですね。対象となる人が約500万人いると言われています。

安田

それは主にパートさんですか?

久野

パートが対象になるでしょうね。給与1000円に対して個人負担が6円ぐらいです。

安田

つまり給料10万円の人は600円の負担ですね。

久野

個人が600円で会社が950円ぐらいの負担になります。500万人いるから結構大きいんですよ。

安田

つまりパートさんも「失業手当をもらえるようになる」ってことですよね。

久野

そうです。じつは今まで自己都合で辞めると2ヶ月間失業手当がもらえなかったんです。ペナルティで。

安田

ペナルティ?

久野

実質的なペナルティですね。みんな失業保険って「失業したらすぐもらえる」と思ってるじゃないですか。

安田

そりゃあ思いますよ。というか、すぐにもらえないと困ります。

久野

だけど自己都合で辞めると2ヶ月間もらえないわけです。つまり自分で退職願を出したら2ヶ月間はもらえない。

安田

なんと!解雇されない限りもらえない?

久野

そう。解雇されると7日後にもらえるんですけど。

安田

でも辞める人って、ほとんど自己都合ですよね。

久野

ほとんど自己都合です。

安田

なぜそんなペナルティがあるんですか?

久野

自己都合で辞めさせなくするためですね。だけど今回そこを法律改正しようとしていて。1週間以上失業状態が続けばもらえるようになります。

安田

2ヶ月のペナルティがなくなるってことですか。

久野

なくなる予定です。じつはこれ元々3ヶ月だったんです。

安田

なんと。次の仕事が決まるまでが1番大変なのに。3ヶ月ももらえなかったら失業手当の意味がないです。

久野

元々払うつもりがない制度なんですよ。日本という国は転職に対して後ろ向きなので。

安田

だけど、そこが変わっていくわけですね。

久野

そういうことです。人をもっと流動化したいので「失業したら手当はすぐに出すよ」と。

安田

手のひら返しもいいとこですね(笑)

久野

失業手当がもらえないと辞める時にブレーキがかかりますから。

安田

そこを変えてしまおうと。

久野

「とりあえず辞めてから考えたら?」という感じにしたいんでしょうね。

安田

すごい変わりようですね(笑)つまり今回の制度変更は「パートさんもどんどん辞めて入れ替わってください」ってことですか。

久野

全体的に雇用の流動性を高めたいのと、あとは500万人が対象となるので財源が得られること。早く出そうと思ったらお金が必要じゃないですか。

安田

退職しやすくすることと、対象者を増やして財源を確保すること。

久野

その二つだと思います。

安田

パートさんって結構入れ替わるので、逆に赤字になっちゃったりしないですか。

久野

1年以上働かないと雇用保険は出ないので。

安田

そうなんですか!

久野

1年未満で辞めたら失業手当はもらえないです。さすがに1年未満でコロコロ変わる人に対しては「出す気はないよ」ってことでしょう。

安田

なるほど。コロコロ変わってもらうことが目的ではないんですね。

久野

移った先の会社で活躍してもらわないと。活躍して収入が増えたら税収も増えていく、という計算なんですよ。

安田

でも40〜50代は逆に下がりませんか。

久野

二極化すると思います。40代は私と同じ氷河期世代なんですけど。

安田

また氷河期世代が割を食うわけですね。

久野

流動化することでそこの収入も増やしたいわけです。75歳まで働く時代なので40歳だとまだ20年しか働いてないわけで。折り返しですらない。儲かる産業に移ってこれからどんどん稼いでくれってことでしょう。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから