第92回 物価上昇で本当に損しているのはお金持ち

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第92回 物価上昇で本当に損しているのはお金持ち

安田

今って紙幣として発行してないお金もあるじゃないですか。いわゆるデジタルマネー、つまりデータとして存在しているお金がたくさんあって、それを全部合わせると、実体経済の何百倍もあるんですって。


スギタ

そうなんですか! でもなんだか不思議な話ですね。もともとお金=モノと交換するための道具、だったはずなのに、今はモノの総量よりも多く存在しているってことですもんね。

安田

そうなんですよ。そもそもお金そのものには大した価値はなくて、何かと交換できるから価値があったわけじゃないですか。ところが現代社会だと、金利とか、株とか為替とかでどんどん増やせちゃう。


スギタ

お金自体が「もっとも価値のあるもの」になっちゃったわけですね。でも、僕は飲食業をやっているからちょっとわかります。物は時間が経つと古くなったり腐っていっちゃいますけど、お金は腐りませんから(笑)。

安田

なるほど、確かに(笑)。ちなみにスギタさんの世代だとあまりピンと来ないかもしれませんが、昔は「金本位制」といって、1ドルが金何グラムと決まっていて、地球上にあるお金は、金と交換できる分だけしかなかった。


スギタ

ああ、知識としては知っています。要するにお金の発行量に制限があったわけですよね。

安田

そうそう。ところがある時にルールが変わって、金の量に関係なくお金を刷れるようになった。アンカーがなくなったことで、どんどんお金が増えていったわけです。


スギタ

そうやって実体経済との剥離が起こっていったわけですね。

安田

そういうことです。本来の経済って、自分が働いて何か価値を生み出して、その対価としてお金をもらう。要はお互いに価値を交換し合うことで成り立つものじゃないですか。


スギタ

ええ。ギブアンドテイクですよね。

安田

そうそう。たださっきも言ったように、既に実体経済の何百倍ものお金が存在してしまっている。つまり、もしお金持ちの人たちが一斉にお金を使おうと思っても、それに見合うだけの物やサービスは世の中にないってことですよ。


スギタ

ああ、そうかそうか。確かにそうなりますよね。

安田

ええ。翻って考えれば、つまりその膨大なお金には、その額ほどの価値はないってことじゃないですか。だってお金があっても買えないんだから。


スギタ

うーむ、なるほど。でもその差、お金の量と実物の量の差はどんどん大きくなっていっているわけですよね。永遠に大きくなり続けたらなんだか恐ろしいです。

安田

どこかで多くの人類が「お金なんて価値がない」とか「お金をもらうためには働かないぞ」となるくらいの大変化が起きない限り、このまま進んでいくんでしょうね。誰しも自分が持っている貯金の価値は信じていたいでしょうから。


スギタ

現実的にそうですよね。そういえばうちの社員も「お金欲しいお金欲しい」ってよく言うから、「1億円あったらどうするの?」って聞いたら、「もちろん貯金します」って(笑)。じゃあ別にいらないんじゃないの? なんて思ったりするんですけど(笑)。

安田

笑。まぁ安心材料としては機能するんでしょうけど、実際のところ貯金は一番損だって言われますよね。今は金利もめちゃくちゃ低いですし。

スギタ

そうですよね。貯金せず投資をバンバンやっている人のほうが実際儲かっているわけで。

安田

ね。そしてそうやって大きな資産を築いた人たちは、お金の価値を上げようとする。何しろお金の価値が下がると、一番ダメージを受けるのはお金を持っている彼らですから。


スギタ

ああ、なるほど。1億円持ってても、価値が半分になったら5000万円になっちゃうわけですもんね。10万円の人も5万円にはなるけど、マイナス5000万とマイナス5万じゃ話が変わってくる。

安田

そうそう。そういう意味でやっぱりお金持ちの方がダメージが大きい。で、今はまさにそういう状況になりつつあって、お金じゃなく物の価値がどんどん上がっているでしょう?

スギタ

確かに確かに。物価上昇がすごいですもんね。…ん、でもそういう意味で言えば、むしろ資産をあまり持っていない人の方が困っちゃいませんか。日々の生活費が上がっちゃうわけで。

安田

そうなんですが、先ほどの理屈から考えれば、やっぱりお金持ちの方がダメージは大きいんですよ。それなのに、資産を持たない人たちが「インフレ=絶対悪」だと思い込まされている。これはある種の呪縛かもしれません。

スギタ

なるほどなぁ。でも実際、どれだけ最低賃金が上がっても、すごいお金持ちには到底追いつけない。人生を全て捧げたって、生涯賃金で2~3億ぐらいしか稼げないわけで。

安田

ええ。だからそこが増えていかなきゃおかしいんです。お金の価値が下がっているんだから、今までの2倍3倍もらわないと割に合わない。

スギタ

確かに…。ということは、僕もケーキ1個を500円で売ってちゃダメなんですね。本当は2万円ぐらいで売らないと、実体経済と金融経済のバランスが取れないのかも(笑)。

安田

笑。まあそこまで極端ではないかもしれませんけど、考え方としてはそういうことなんです。

スギタ

う〜む、なんだか虚しくなってきますね。何のために働いているんだろうって。

安田

どうしてもそう感じてしまいますけど、結局、お金自体はもう紙切れですらないただのデータだと割り切ることも大事なんでしょう。PayPayで「ピッ」とするだけで決済ができてしまう。実体が何もないんですよ。

スギタ

確かに。そう考えると、美味しいケーキをお客様に届けて喜んでもらう、っていうのは実体ですもんね。そっちを一生懸命やっている方が健全なのかもしれません。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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