第110回 ラグジュアリーブランドという「植民地政策」

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第110回 ラグジュアリーブランドという「植民地政策」

安田

前回、昔の貴族や王様の話が出ましたが、ラグジュアリーブランドの歴史もそこに関係していますよね。元々は王族のような特権階級のためのものだったのが、産業革命が起きて、商売で成功してお金を持った一般市民も買えるようになった。


藤原

ええ。いわゆるブルジョワジーですね。

安田

日本でも、商人がお金の力で武士より強くなっていくような、一種の下剋上のストーリーがありましたよね。


藤原

そうですね。お金というチケットさえあれば、かつての王族と同じようなものを所有できるようになった。それが現代のラグジュアリーブランドのビジネスモデルの原型です。

安田

確かに。でも今のブランドビジネスを見ていると、ターゲットは完全に「アジアの成金」ですよね。どのブランドも青山や銀座に立派な店舗を構えてますけど、日本や中国、東南アジアの人たちが一番の「カモ」にされているんじゃないかと思ってしまいます。


藤原

フランスやイタリアなどの本国のお店より立派だったりしますからね(笑)。我々アジア人が効率のいいターゲットであることは間違いないでしょう。

安田

バブル期に日本人がヨーロッパでヴィトンやプラダを買い漁った経験から、「アジアに売れば儲かる」と学習したんでしょう。


藤原

マーケティングもそこに最適化されて今に至ってますからね。

安田

そうそう。ただ、広告にはスレンダーな欧米のモデルを使っているのに、実際にお店に来るのは全然違う層なわけじゃないですか。この間もカルティエのお店の前を通ったら大行列ができていて、オープン前に「今日買えるのはここまでです」って整理券が配られていたんですよ。


藤原

ああ、よく見る光景ですね。整理券の抽選に当たっただけで大喜びして、まるでイベントのように買い物をしている。

安田

そうなんです。並んでいるのは中国人や東南アジアの、最近稼げるようになった人たちばかり。でも広告に出てくるのは美しい白人女性。つまり「これを身につければ、広告の中の彼らのようになれる」という幻想を売っているわけですよね。


藤原

そうですね。ブランド側もビジネスですから、規模が拡大すれば店舗代や人件費といった固定費も増えます。そうなると「わかる人だけに売る」なんて悠長なことは言っていられない。マーケットが大きいところにプロモーションをかけるのは当然ですが、その結果として「高貴なラグジュアリー」が大衆化してしまったのは否めないですね。

安田

LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)のような巨大グループによるコングロマリット化が進んで、職人のこだわりよりも「ロゴが目立つこと」が優先される商品も増えましたよね。


藤原

いわゆる「ロゴドン」ですね。

安田

ロゴがドーンと貼られているデザインですよね。あれって不思議なもので、一度火がつくと皆寄ってたかって欲しがるじゃないですか。


藤原

やはり人間にはどこかに自己顕示欲がありますから、そこを巧みに刺激してくるわけです。かと思えば、その逆を行く「クワイエット・ラグジュアリー」が流行ったり、トレンドを絶えず変化させることで、消費者の購買意欲を煽り続けているんです。

安田

ははぁ、なるほど。そういえばこの間ダウンジャケットを買ったんですけど、モンクレールとか10年前に比べたら価格が2〜3倍になっていて。でも品質が上がったわけじゃないんです。結局は目立つところに入ったロゴと、「私はこれを着ているんだ」という価格が上乗せされている。


藤原

その自尊心のために莫大な広告費や店舗の維持費をかけていますからね。そしてその分のコストを商品価格に転嫁している。ブランディング代を消費者が負担しているようなものです。

安田

高くなるべくして高くなっているということですよね。全く同じものがどんどん値上がりしていくのに、逆にお金持ちは「値段が下がらないから」といって投資も兼ねて買っていく。本当によくできたビジネスモデルですよ。ある意味で現代の「植民地政策」みたいだなと。

藤原

ああ、なるほど。見事な例えですね。

安田

まだ十分な富や文化基盤を持っていない国の人たちに、「いつかあれを買うのが成功の証だ」と憧れを植え付ける。そしていざお金を持ったら、そのブランド品を売って富を回収する。植民地から富を吸い上げるのと構造は一緒ですよ。

藤原

確かに。多くの老舗ブランドが創業家から離れて、LVMHやケリング、リシュモンといった巨大資本の傘下に組み込まれて、金融商品のようになってしまいましたからね。

安田

ポルシェやベンツのような車も同じ道を辿っていますよね。

藤原

そうそう。ただその中で、唯一エルメスだけは独立系を貫いていると言えますね。大資本に買収されることを拒否して、モノづくりのこだわりを維持している。

安田

ああ、そうですね。だからこそ、あのブランドだけは別格扱いされている側面もあるんでしょう。

藤原

ええ。それ以外は悲しいかな「資本家主義」の論理に飲み込まれているのが現状という。

安田

なるほどなぁ。そうなると、我々消費者の側も試されますよね。ただ高いものを買って喜んでいるだけでは、彼らの養分になるだけですから。

藤原

仰るとおりです。だからこそ「新しいラグジュアリー」について考える必要があると思うんです。自分たちにとって本当の豊かさや美しさとは何か。それを自分の頭で定義し直す時期に来ている気がします。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

Twitter note

1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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