HR 第4話『正しいこと、の連鎖』執筆:ROU KODAMA
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SCENE:051
「あの……これはどういうことなんです」
BAND JAPANのエントランスに現れた柳原は、青い顔をして言った。痩せ型の長身にクリエイターっぽい服装。昨日も俺たちをこうして迎えた、案内役の男だ。
「社長の許可は取れているはずですが」
高橋が事もなげに言うと、柳原は困った顔でうつむき、唸った。昨日以上に怯えた様子だ。
「ええ、それはそうなんですが……ただ、私としても内容を事前に聞いておく必要が、ですね……」
モゴモゴと言う柳原を横目に、「さ、行くわよ」と高橋は俺に言った。
全く取り合おうとしない高橋の様子に、柳原も諦めたのだろう。槙原社長とアポが取れているのは事実らしい。結局それ以上は何も言わずに俺たちを先導し始めた。
それにしても、昨日の今日でよくOKをもらえたものだ、と思う。
……いや、下手をしたら希望を出したのは今朝なのかもしれない。何しろ今回の案件をどうするか、昨晩あの落ち着いたバーに行った時点では決まっていなかったのだ。
俺たちは昨日と同じ“ジャングル”の中を進み、そして当然のように、それを通り過ぎた。つきあたりを左に曲がって、それまでとはまるで雰囲気の違う“壁”へと向かう。
柳原が壁の脇にある電話機を使って中に何事かを伝えると、やがて扉が開いた。柳原はほとんど諦めの境地といった顔で俺たちを奥へと案内する。1つ目の扉を抜けた先のサイネージには、昨日と同じ「未許可の方は立ち入りをご遠慮ください」の文字。電話に向かって昨日同様にペコペコと頭を下げる柳原の細い背中を見ながら、今更のように緊張を覚えた。一体高橋は、いや、“俺たち”は、何をするためにここにやって来たのか。昨夜、例によってHR特別室のメンツは俺に何も教えてくれなかった。ただ、「明日13時、BAND JAPANに乗り込む」と一方的に告げられただけだ。
「あの……プレゼンって、一体何をどうプレゼンするんですか」
サイネージの威圧的な文字と怯える柳原を見比べながら、隣の高橋に小声で聞いた。保科や室長の姿がないことも気になるが、まずは何をしにここに来たのか、だ。高橋は無表情にこちらを見て、何も言わないまま視線を戻す。そしてボソリと、しかし何の迷いもな口調で言った。
「何をプレゼンするかって、そんなの決まってるじゃない」
「……え?」
「価値観よ」
「……は?」
「私たちは、価値観をプレゼンしに来たのよ」
そのとき2つ目の扉が開き、俺達の前にBAND JAPANの“本体”、高木生命が姿を表した。