さよなら採用ビジネス 第6回「ZOZOスーツ型採用 」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい ①似たような広告と経営者が楽な広告、②面倒くさいことをやったもん勝ち 第5回「なぜ経営者は広告を出したがるのか」


安田

前回は、ZOZOSUITの話をしました。SMLに限定された服に人が合わせるのではなく、一人ひとりの人に合わせて服が作られる時代。これは仕事にも応用できるのではないかという話でした。

石塚

はい、そうでしたね。

安田

実は私、ここ70〜80年がたまたまそういう時代だっただけじゃないか、と思ってまして。

石塚

と、おっしゃいますと?

安田

会社を作って事業を立ち上げて、仕事ごとに給料を決めて人を採用する。今はそれが当たり前ですけど、元々はそうではなかったのではないかと。例えば10人ぐらいで無人島に漂着してしまった場合、会社なんて作りません。

石塚

まあ、作りませんね。

安田

でも生きていくためには、働かなくちゃならない。そうなると自然に、それぞれが得意なことを生かして働くと思うんです。力持ちは力仕事をして、料理が得意な人は料理をし、知識がある人は食べられる木ノ実を探し、素潜りが得意な人は魚貝を獲る。

石塚

そうなるでしょうね。

安田

ところがここ70〜80年は、会社というものが急激に普及して、用意された仕事に人間が合わせるようになった。でもそれが、また元に戻るんじゃないかと。ある日突然とは言いませんけど、この構図が根底から変わる可能性があるのではないか、という気がしています。

石塚

江戸時代の人と仕事はそういう関係だったみたいですね。江戸時代はすごく職業が多かったんですよ。例えば伝統工芸品の筆がある。その筆を作るためには、毛を束ねる職人がいたり、柄の部分を作る職人がいたり、毛を集める為にタヌキを捕る職人がいたり、そのための罠を作る職人がいたり。そういうことが網目のようにつながると1つの工芸品になる。

安田

絵空事みたいな話ですけれど。これからは効率を度外視して働く人が、増えるんじゃないかと思います。タヌキを獲ることが好きで、生きていけるのであれば、それでいいじゃん。みたいな風向きになってきている。外食も全国に500店舗つくるとなると、皆に好かれる店にしないといけません。けれども1店舗なら、自分が好きなものだけ作って、それが好きだと言ってくれるお客さんが一定数いれば、十分商売はやっていけます。

石塚

外食の例でいうと、2000年にスターバックスが店舗数500を完成させたんですけど、以降その店舗数のチェーンオペレーションを完成させたのは、丸亀製麺と鳥貴族だけなんですよ。昔は500店舗以上って、すかいらーくなど沢山ありましたよね。この20年で、いかに日本人の好みや思考が多様化しているかということ。

安田

我々の学生時代って、女の子はみんなルイヴィトンを欲しがってたし、男はみんなレノマのセカンドバッグを持ってましたよね。

石塚

なつかしい!

安田

あれから20〜30年しか経っていませんけど、完全に様変わりしましたね。「どこにいっても安心できるファミリーレストランに行こう」ではなく、「なんでわざわざ旅行にいってまでチェーン店に行くんだ」っていう人が圧倒的に増えてきている。

石塚

そうですよね。皆が良いかどうかではなく、自分が良いと思う店にいきたい。でも仕事の場合は、人気ランキング上位企業に入って、みんなにスゴイ!と言われたい。それがまだまだマジョリティーです。

安田

でもマジョリティーとマイノリティーって一瞬で入れ替わりますから。タバコだってちょっと前までは吸っている方がマジョリティーでした。でも今ではあんなに肩身が狭くなっちゃって。

石塚

今はスマホというコネクションツールがありますから。変化のスピードはどんどん加速されるでしょうね。

安田

知り合いのコピーライターの娘さんが牧場で働いているんですけど。牛や馬を育てる仕事って、しんどいし、肉体労働だし、汚れるし、3K4Kですよね。でも自分でわざわざ牧場探して、応募して、就職しちゃったらしいです。まさに最先端の職探しですよね。

石塚

ホントそうですね!

安田

企業の側もこれからは、好きを軸にした募集を考える必要があると思います。一人ひとりの好きに合わせた募集。

石塚

私もその通りだと思います。ただ一つ注意しないといけないことがあります。個人のやりたいことや好きのバリエーションが増えてきて、いわゆる職業名で対応できないケースが増えてきているのです。例えば、先ほどの牧場で働く娘さんの話も、それって職業名って何ですか?「動物飼育員?ちょっと違うよな、牧場スタッフ?合っているけど、うーん…」ってなってしまう。

安田

そうなんですよね。その人にぴったり、という事を考えると、人間の数だけ職種名が必要になってくる。既存の職業名を安易に使って募集広告を作ってはならない、と。

石塚

はい。

安田

もはや、そういう時代に入っている。

石塚

入ってますね。

安田

我々の世代もそうですけど今はまだ、働く=会社に勤める、になっている。つまり求人情報の中から選ぶことが就職だと思っている。でもリクナビやマイナビに載っている求人なんて、世の中の仕事のほんの一部なんですけどね。

石塚

そうです。ほんの一部。

安田

企業も求人広告を出すことが採用だと思っているじゃないですか。その両方を根底から変えることを、採用をビジネスにしている会社は考えないといけない。

石塚

就職や転職という既定の出会いではなく、偶然見つけた会社に魅力を感じ、ある要素が揃った時に、ここで働きたいなと感じる偶然の出会い。それが仕事探しのベースになると思います。

安田

偶然の出会いと言いつつ、採用の上手な会社はそれをすごく意識してますよね。

石塚

はい。そういう会社はHPを見ても「私はこういう人と働きたい、こういう仕事をしてほしい」ということが、とても魅力的に表現されている。

安田

でもそれって、そんなに難しい事じゃないと思うんですけど。つまりは「私はこの仕事が大好きで、同じように感じている人がいたら来てね」という単純なロジック。まあ大前提として、自分たちが仕事を楽しんでいないといけないのですが。

石塚

はい、そこが一番大事です。仕事が好きで、それをうまく表現している会社には、いい人材が集まって来ます。

安田

だけど、まだまだ99%の会社も、99%の仕事探しをしている人も、前の常識から変わっていない。好き嫌いで仕事が出来るか、と考えている。だからこそ、早い者勝ちかなという気がします。

石塚

そうですね、人材紹介事業を撤退した理由にも繋がるんですけど、良い会社だなと思う会社はもう既に取り組んでいますね。彼らは業者に頼らず、直接的に良い人と接触することにとても熱心です。ある人を採るのに8年間接点を持ち続けた例を知っています。その人は今では会社のコア人材です。

安田

へぇ!素晴らしい。

石塚

手間はかかるけど、経営者自身が連絡を取りながら、人間関係をつくり続けている。そういう経営者がいる会社は、ダイレクトに良い人と繋がっていくのを感じます。日本はどうしても新卒の一括採用があまりにも強すぎて、あの残像が目に焼き付いている。いまだに書店で棚をみても、「何故、無名の会社がこれだけ新卒社員を集められるのか」みたいなのを見ます。古いなと思いますね。

安田

古い!私もやってましたけど。

石塚

大金をはたいて人を大勢集めるのではなく、出会うべき人と出会う方法をしっかりと考える。それが、これから企業の取り組むべき求人の姿だと思います。

安田

やたら人を集めよう、広告ページを増やそう、人材を紹介できます、などと提案してくる採用会社はダメだと。

石塚

はい。でもそれをやるのが予定調和というか。企業も理解できないし、営業的に成り立たない。私が採用ビジネスを止めようと思った理由は、まさにそれですから。

次回第7回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

 

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