「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第70回「劣等感はどこまで続く」
前回、第69回は「我慢はいずれ嫉妬へと変わる?」
私が子どもの頃って、なんとなく「外人が怖い」とか「外国人には勝てない」みたいな苦手意識がありました。
それはスポーツとかで?
スポーツをやっても何やっても「白人のほうが上」みたいな。
「国内では勝てても、海外では勝てない」みたいなね。
そうそう。でも最近は世界中で活躍する人がポンポン出てきてますよね。
はい。どんどん出てきてます。
「苦手意識はどこ行ったんだ?」ってすごく不思議なんですけど。
若い子の中では、もう消えてますよ。
泉さんの世代はどうなんですか?外人に対する劣等感はありましたか。
親の世代はすごくありましたけど、私ぐらいからだいぶ減りましたね。
へぇ~。
昔は力道山が白人レスラーと戦って倒したりすると「うわーっ!」ってなったわけです。いま、べつにならないですから(笑)
なりませんね、たしかに。
白人だろうが、日本人どうしだろうが「大して変わらへんね」って。
ちなみに、そういう劣等感が生まれたのって戦後ですか。それとも戦前からあったんですか?
ペリーが来た頃からあったと思いますね。「体でかいし、着てる服違うし、軍隊は強いし」みたいな。
なるほど。ということは開国した頃から「やばいぞ。こいつらには勝てないぞ」って植え付けられてきたと。
そうです。
じゃあ勝てないと思ってるのに、なんで戦争したんですか?
そうですよね。
そろそろ自信がついてきて「一発ここはやったろう」って感じ?
「ロシアに勝ったし、常任理事国もなったし、俺たちいけるんちゃうか?」みたいな。おごり高ぶり始めた。
で、コテンパンにやられて、さらに劣等感が強くなったと。
そういうことです。「やっぱあかんかった」みたいな(笑)
でも当時の軍部の人たちって、本当にアメリカに勝てると思ってたんですかね?
いや、思ってないですよ。誰も。
ですよね。
はい。だから早く講和させたかった。
そこが狙いだったと。
一発大きくやって「向こうも本格的にはやらへんやろ。早く妥協点を探して講和条約を結ぼう」みたいな。
そもそも、なぜ戦争しようと思ったんですか?
中国から撤退しろって言われたから。でも満州をつくってしまったので「いまさら撤退できん。何万人も日本人おるのに」って。
なるほど。
で、「撤退せえへんかったら、石油から何から全部止めるで。経済封鎖するで」って言われた。日本としては妥協点を探したかったんでしょう。
じゃあ妥協点を探るため?一発ジャブをかましておいてから講和しようと。
そういう腹づもりだったけど、ジャブじゃなくて全面戦争になってしまった。
なぜ全面戦争になったんですか?出だしは悪くなかったから、そこで止めといたらよかったのに。
アメリカの世論が全面戦争になったからですよ。
アメリカにしたら「待ってました」って感じ?
そうです。アメリカは全面戦争をする気満々でしたから。
なるほど。そう考えたら、いまの北朝鮮は上手ですよね。全面戦争にならないように、うまくかいくぐったパンチを、忘れた頃に出してきて。
そうです。上手なんですよ。駆け引きが。
日本の敗戦から学んでるんですかね。
それは学んでますよ。
へぇ。
全面戦争をやったら、あっという間にやられちゃうので。そうならないように考えてる。
まあそうですよね。イランなんかも全面戦争なんて絶対やらない。
絶対やらないですよ。それは歴史でわかってますから。
そう考えたらトランプさんも酷いですよね。強いほうがジャブ出してどうすんだっていう。
トランプも戦争なんてやる気はないと思います。
中東の人たちは白人に対して「この人たちには勝てません」みたいな劣等感を持ってるんですか?
劣等感はないですね。
ないですか。
ぜんぜんないです。
それはどうして?
日本みたいに「外国の文化のほうがすばらしい」っていうプロパガンダをやらなかったから。
でもイラクなんてコテンパンに、それこそ国がなくなるぐらい「叩きのめされた」じゃないですか。
はい。
それでも「アメリカに服従するものか」的な反骨心がある。気質の違いなんですかね。
日本人は文明開化で「そっちに見習え」ってやってきたから。で、調子にのって戦争して負けて「やっぱり敵いませんでした」みたいな。
中東はそうじゃない?
イラクとかはそうじゃない。「見習え」なんてことを一度もやってませんから。
でも実際に使ってるのは、白人がつくった武器ばっかりですけど。
「パクれ」ってことですね。「見習え」じゃなく。
ちなみに日本人が持ってたような劣等感って、黒人は持ってるんですか。白人に対して。
差別があった頃は持ってたかもしれないです。
でも黒人が持ってる劣等感と、またちょっと違いますよね。日本人は。
ちょっと違いますね。
どちらかというと迎合してるというか。南アフリカでも「名誉白人」とか言われて喜んでたし。
そうですね。
まあ嬉しい気持ちもわかりますけど。私の世代だけ?
今の若い世代には分からないでしょう。
いまの10代20代って、白人に対してまったく劣等感を持ってないんですか?
ほぼ消えてると思う。
日本以外の東洋の若者はどうなんですか?ベトナムも戦争してますけど。
ベトナムは戦争で勝ってますから。生活への憧れはあっても劣等感はないです。
日本人って、彼らにはどう見えてるんですか?情けなく見えてるんですか。
日本は「戦争で負けたけど頑張ってる国」ってことで、一目置かれてますね。
実際はアメリカの言いなりですけど。
昔は違ったと思いますよ。今はすっかりアメリカの子分ですけど。