変と不変の取説 第70回「劣等感はどこまで続く」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第70回「劣等感はどこまで続く」

前回、第69回は「我慢はいずれ嫉妬へと変わる?」

安田

私が子どもの頃って、なんとなく「外人が怖い」とか「外国人には勝てない」みたいな苦手意識がありました。

それはスポーツとかで?

安田

スポーツをやっても何やっても「白人のほうが上」みたいな。

「国内では勝てても、海外では勝てない」みたいなね。

安田

そうそう。でも最近は世界中で活躍する人がポンポン出てきてますよね。

はい。どんどん出てきてます。

安田

「苦手意識はどこ行ったんだ?」ってすごく不思議なんですけど。

若い子の中では、もう消えてますよ。

安田

泉さんの世代はどうなんですか?外人に対する劣等感はありましたか。

親の世代はすごくありましたけど、私ぐらいからだいぶ減りましたね。

安田

へぇ~。

昔は力道山が白人レスラーと戦って倒したりすると「うわーっ!」ってなったわけです。いま、べつにならないですから(笑)

安田

なりませんね、たしかに。

白人だろうが、日本人どうしだろうが「大して変わらへんね」って。

安田

ちなみに、そういう劣等感が生まれたのって戦後ですか。それとも戦前からあったんですか?

ペリーが来た頃からあったと思いますね。「体でかいし、着てる服違うし、軍隊は強いし」みたいな。

安田

なるほど。ということは開国した頃から「やばいぞ。こいつらには勝てないぞ」って植え付けられてきたと。

そうです。

安田

じゃあ勝てないと思ってるのに、なんで戦争したんですか?

そうですよね。

安田

そろそろ自信がついてきて「一発ここはやったろう」って感じ?

「ロシアに勝ったし、常任理事国もなったし、俺たちいけるんちゃうか?」みたいな。おごり高ぶり始めた。

安田

で、コテンパンにやられて、さらに劣等感が強くなったと。

そういうことです。「やっぱあかんかった」みたいな(笑)

安田

でも当時の軍部の人たちって、本当にアメリカに勝てると思ってたんですかね?

いや、思ってないですよ。誰も。

安田

ですよね。

はい。だから早く講和させたかった。

安田

そこが狙いだったと。

一発大きくやって「向こうも本格的にはやらへんやろ。早く妥協点を探して講和条約を結ぼう」みたいな。

安田

そもそも、なぜ戦争しようと思ったんですか?

中国から撤退しろって言われたから。でも満州をつくってしまったので「いまさら撤退できん。何万人も日本人おるのに」って。

安田

なるほど。

で、「撤退せえへんかったら、石油から何から全部止めるで。経済封鎖するで」って言われた。日本としては妥協点を探したかったんでしょう。

安田

じゃあ妥協点を探るため?一発ジャブをかましておいてから講和しようと。

そういう腹づもりだったけど、ジャブじゃなくて全面戦争になってしまった。

安田

なぜ全面戦争になったんですか?出だしは悪くなかったから、そこで止めといたらよかったのに。

アメリカの世論が全面戦争になったからですよ。

安田

アメリカにしたら「待ってました」って感じ?

そうです。アメリカは全面戦争をする気満々でしたから。

安田

なるほど。そう考えたら、いまの北朝鮮は上手ですよね。全面戦争にならないように、うまくかいくぐったパンチを、忘れた頃に出してきて。

そうです。上手なんですよ。駆け引きが。

安田

日本の敗戦から学んでるんですかね。

それは学んでますよ。

安田

へぇ。

全面戦争をやったら、あっという間にやられちゃうので。そうならないように考えてる。

安田

まあそうですよね。イランなんかも全面戦争なんて絶対やらない。

絶対やらないですよ。それは歴史でわかってますから。

安田

そう考えたらトランプさんも酷いですよね。強いほうがジャブ出してどうすんだっていう。

トランプも戦争なんてやる気はないと思います。

安田

中東の人たちは白人に対して「この人たちには勝てません」みたいな劣等感を持ってるんですか?

劣等感はないですね。

安田

ないですか。

ぜんぜんないです。

安田

それはどうして?

日本みたいに「外国の文化のほうがすばらしい」っていうプロパガンダをやらなかったから。

安田

でもイラクなんてコテンパンに、それこそ国がなくなるぐらい「叩きのめされた」じゃないですか。

はい。

安田

それでも「アメリカに服従するものか」的な反骨心がある。気質の違いなんですかね。

日本人は文明開化で「そっちに見習え」ってやってきたから。で、調子にのって戦争して負けて「やっぱり敵いませんでした」みたいな。

安田

中東はそうじゃない?

イラクとかはそうじゃない。「見習え」なんてことを一度もやってませんから。

安田

でも実際に使ってるのは、白人がつくった武器ばっかりですけど。

「パクれ」ってことですね。「見習え」じゃなく。

安田

ちなみに日本人が持ってたような劣等感って、黒人は持ってるんですか。白人に対して。

差別があった頃は持ってたかもしれないです。

安田

でも黒人が持ってる劣等感と、またちょっと違いますよね。日本人は。

ちょっと違いますね。

安田

どちらかというと迎合してるというか。南アフリカでも「名誉白人」とか言われて喜んでたし。

そうですね。

安田

まあ嬉しい気持ちもわかりますけど。私の世代だけ?

今の若い世代には分からないでしょう。

安田

いまの10代20代って、白人に対してまったく劣等感を持ってないんですか?

ほぼ消えてると思う。

安田

日本以外の東洋の若者はどうなんですか?ベトナムも戦争してますけど。

ベトナムは戦争で勝ってますから。生活への憧れはあっても劣等感はないです。

安田

日本人って、彼らにはどう見えてるんですか?情けなく見えてるんですか。

日本は「戦争で負けたけど頑張ってる国」ってことで、一目置かれてますね。

安田

実際はアメリカの言いなりですけど。

昔は違ったと思いますよ。今はすっかりアメリカの子分ですけど。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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