第323回 少し外したご退職

 このコラムについて 

「担当者は売り上げや組織の変革より、社内での自分の評価を最も気にしている」「夜の世界では、配慮と遠慮の絶妙なバランスが必要」「本音でぶつかる義理と人情の営業スタイルだけでは絶対に通用しない」
設立5年にして大手企業向け研修を多数手がけるたかまり株式会社。中小企業出身者をはじめフリーランスのネットワークで構成される同社は、いかにして大手のフトコロに飛び込み、ココロをつかんでいったのか。代表の高松秀樹が、大手企業とつきあう作法を具体的なエピソードを通して伝授します。

本日のお作法/少し外したご退職

 

某大手の若手さんとの会話に、印象に残る一言が。

「辞め方って、意外と“設計”できるんですね」

聞けば、彼はこんなスケジュールで退職を決めたそうです。

・ボーナスはきちんともらう
・月末は避けて退職(30日)
・翌日から次の会社に入社

彼曰く、「僕は、あまり空気は壊さず、損もしない“バランス型退職”なんですよ」と。

珍しいなと思いました。

大手での退職はどこか“様式”があります。

・月末に辞める
・有給はきれいに使い切る
・翌月から次の会社へ

誰かに教わったわけではないのに、なぜかほとんどの人が同じ動きをします。

彼曰く、理由はシンプル。「考えなくていいからなんです」と。

その流れに乗っていれば、波風も立たないし、人事にも説明しやすい。

何より、「ちゃんとしている感じ」が出る。

ただ、その“ちゃんとしている感じ”の裏で、「数万円〜十数万円」が静かに動いていることは、あまり意識されません。
(実際、彼はいくらかの利益を享受したと笑っていました)

僕も、最初は、同じように月末退職で考えていたんです。

「でも、調べてみたら、ちょっと変わるなと思って」

その“ちょっと”が、面白い。

大きくルールを破るわけではない。

会社と揉めるわけでもない。

ただ、ほんの少しだけ前例からずれる。

それだけで、結果が変わる。

この「少しだけ外す」という感覚は、大手では意外と難しいものです。

外しすぎると浮く。
外さなければ埋もれる。
その間の、絶妙なライン。

彼はこう続けます。

「大手組織で、空気を無視するのは簡単ではないけど、 全部空気に従うのも、なんか違うなと思って」

「3年間ここで過ごしていたら、だんだんと自分の頭で考えなくなってきた自分に気づいて怖くなってきたんです」

いわゆる大手で好かれる“バランス感覚”とは違う感覚をお持ちな人やなと感じました。

大手企業の制度は、とてもよくできています。

ただ、それは“使い方まで最適化されている”わけではありません。

むしろ、

・空気に従う人
・制度を使う人

が、同じ環境の中に共存しているのが実態です。

退職という場面に、その違いが少しだけ表に出た瞬間なのかもしれません。

後日。人事の方と何気ない雑談をしていたとき、こんな話が出ました。

「この前のあの若手、いましたよね」

少しだけ間を置いて、こう続きます。

「…まあ、いろいろ“考えてる子”なんですよね」

言葉は穏やかでしたが、ニュアンスは十分に伝わってきました。

空気を読みながら、少しだけ外す人。

大手企業において、それは“合理的な人”なのか、それとも“扱いづらい人”なのか。

評価は、案外、立場によって変わるものです。「自分で考えること」を止めたくはないものですね。

 

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高松 秀樹(たかまつ ひでき)

たかまり株式会社 代表取締役
株式会社BFI 取締役委託副社長

1973年生まれ。川崎育ち。
1997年より、小さな会社にて中小・ベンチャー企業様の採用・育成支援事業に従事。
2002年よりスポーツバー、スイーツショップを営むも5年で終える。。
2007年以降、大手の作法を嗜み、業界・規模を問わず人材育成、組織開発、教育研修事業に携わり、多くの企業や団体、研修講師のサポートに勤しむ。

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