第121回 「夏の日陰」と「冬の日当たり」を操る庭づくり

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第121回 「夏の日陰」と「冬の日当たり」を操る庭づくり

安田

以前もお話しましたけど、最近、都市部の日当たりが良すぎることが問題になってますね。夏の強すぎる日差しをどう遮るか、つまり「日陰」をどう庭に取り込んでいくかも重要になってきているんじゃないですか?


中島

ええ。仰る通り日陰をどう作るかは常に意識しています。リビングの前の庭には必ず木を植えるようご提案したり。

安田

ああ、木で日陰を作るわけですね。目隠しの役割も考えると、やっぱりずっと葉がついている常緑樹がいいんですかね。


中島

そういう考え方もあるんですが、冬場の日当たりを考えると、落葉樹の方がおすすめなんですよね。建物のすぐ近くに常緑樹があると、冬場に日が全く入らなくなって家の中が寒々しくなってしまうので。

安田

ああ、なるほど。落葉樹なら、夏は葉が生い茂って木陰を作ってくれて、冬は葉が落ちるから暖かい陽射しがリビングに入ってくる。天然のカーテンというか、季節に合わせて衣替えしてくれるわけですね。


中島

まさにまさに。あとは敷地が広ければ、「木陰用のスペース」を作ることもあります。敷地が100坪ぐらいで、建物が40坪ぐらいあると作りやすいですね。

安田

それはやっぱり木を植えることで作るんですか?


中島

基本的にはそうすることが多いですが、状況によってはタープなどを張って作ることも多いですね。

安田

ああ、タープですか! キャンプみたいでいいですね。確かに木が育つのを待っていたら何年もかかりますし、必要な時だけ広げられるタープは合理的かもしれません。


中島

そうなんです。いずれにしても、ある程度の広さが確保できる場合に限られますけどね。特に岐阜は車社会なので、駐車場から玄関までの動線を確保すると、どうしても植栽スペースが限られてしまうので。

安田

確かに人が入れる日陰を作ろうと思ったら、それなりに大きな木じゃないと無理ですもんね。高さでいうと4、5メートルくらいは必要でしょうし。でもですよ、木があることのメリットって、もっと根本的な温度変化にあるような気もするんです。単に直射日光を遮るだけじゃないというか。


中島

仰るとおりで、木陰ができると地熱が下がるんです。現場で作業していて実感するんですが、地面が砂利や土の場所と、アスファルトやコンクリートの場所とでは、体感温度がまるで違います。

安田

そうでしょうね。最近は雑草対策で庭をコンクリートで埋めちゃう家も増えてますけど、あれは温度という観点から見ると、家全体を温めてしまっているようなものでしょう? これだけ夏が暑いのに、さらにそれを加速させてしまっているというか。


中島

本当に死活問題になりつつありますよね。知り合いの建設会社さんが、資材置き場を使いやすくするために、元々砂利だった場所をアスファルトに変えたそうなんです。そしたらその年の夏に社員が3人も熱中症で倒れてしまったらしくて。

安田

それは恐ろしい話ですね…。地面の素材が変わるだけでそこまで影響が出るんですか。


中島

照り返しと蓄熱が段違いですからね。庭に土と木があるだけで、夏の過ごしやすさはだいぶ変わります。

安田

なるほどなぁ。ちなみに「西日がきついから何とかしたい」という相談も多いと思うんですが、そういう場合はどう対処するんですか? 西日って高度が低いから、部屋の奥まで差し込んできて眩しいし暑いんですよね。

中島

西日対策の場合は、落葉樹ではなく常緑樹を使います。窓の高さよりも少し上の、3メートルくらいの木を植えるだけで、差し込む日差しはほとんど解消できるんです。ただ、4、5メートルになると狭い庭では圧迫感が出るので、3メートルくらいで成長の遅い「ソヨゴ」のような木を選ぶことが多いですね。

安田

なるほど、西日は常緑樹で防ぐんですね。

中島

ええ。ただ、実は樹木にとっても西日って嫌なものだったりするんです。なので木に負担がかかりすぎないような工夫もしなければならなくて。

安田

へぇ、そうなんですか。そういう意味では本来なら家を建てる段階で、日差しの角度や木を植える位置なんかまで計算しておく必要がありそうです。

中島

理想を言えばそうなりますね。リビングを南向きではなく東や北向きに配置すれば、庭も西日の影響を受けにくくなりますし。山の中を想像してもらうとわかるんですが、木々が密集しているので、一日中直射日光が当たっている木って意外と少ないんです。

安田

ああ、確かに。そう考えると、西日を遮ることで、人間にとっても木にとっても優しい家づくりができるのかもしれませんね。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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