第123回 水音と苔が作る「和の静けさ」の正体

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第123回 水音と苔が作る「和の静けさ」の正体

安田

日本庭園って、特有の「静けさ」があると思うんです。ししおどしの音とか、水が流れる音があるのに、逆に静寂を感じるというか。現代の住宅でも、そういう和のテイスト、静けさの演出みたいなものを取り入れることはあるんですか?


中島

ありますね。ししおどしはあまり使いませんが、「筧(かけい)」といって、水がチョロチョロと流れ落ちる仕掛けを作ることはあります。

安田

ああ、神社の手水舎(ちょうずや)みたいなやつですね。あれが庭にあると一気に和の雰囲気が出ますね。


中島

そうですね。ただ日本庭園で使われる本物の竹だと、2、3年ですぐに腐って駄目になってしまうんです。なので最近は、モダンな住宅に合わせてステンレス製の筧を使ったりして、メンテナンス性とデザインを両立させています。

安田

ステンレスの筧ですか! それは現代アートみたいで面白そうですね。水があるということは、そこには「苔」が生えてくると思うんですが、苔もまた静寂を感じさせる重要なアイテムという気がします。


中島

そうですね。日本庭園の技法として、景石(けいせき)という石を置いて、その上を木で覆って日陰を作ってあげると、自然と石の上に苔が乗ってくるんです。わざわざ植えなくても、環境さえ整えてあげれば、その土地に合った強い苔が勝手に生えてきます。

安田

「勝手に生えてくるのを待つ」というのは、なんだか哲学的ですね。苔ってホームセンターで買ってきて植えても、なかなか定着せずに茶色くなって枯れちゃうことが多いじゃないですか。


中島

ええ。スギゴケなんかを植えることもありますが、数年に一度は植え替えないと維持できないことが多いです。それよりは、自然に生えてきた苔の方が、その環境に適応しているので丈夫で美しいんです。

安田

ああ、なるほど。苔の方が「ここは居心地がいいぞ」と生えてきたわけですもんね。


中島

そうなんですよ。ただ苔は繊細なので、水やりは欠かせません。ところがやりすぎると今度は「ゼニゴケ」が生えてきちゃう。

安田

ああ、あのベタッとした平べったい苔ですね。地面にへばりついてるやつ。あれが生えると一気に風情がなくなりますもんね。


中島

そうなんです。あれは見栄えが良くないので嫌われるんですが、湿気が多すぎるとすぐに出てきてしまう。だから美しい苔の庭を維持するには、日当たりと水分の絶妙なコントロールが必要なんです。

安田

なるほどなぁ。苔を維持するのも大変なわけですね。他にも雑草対策も必要でしょうし。


中島

そうそう、それが一番大変で。雑草が生えてくると、苔はすぐに負けてしまうんです。根っこが強い草が入ると、もう苔ごと剥がさないといけないこともあって。だからお客様の庭で苔を取り入れる時は、だいたい5平米(約1.5坪)くらいの管理ができる範囲に限定して提案するようにしています。

安田

ああ、それくらいなら、週末にちょっと草抜きをする程度で維持できそうですもんね。一面の苔庭も憧れますが、一般家庭でそれをやろうとすると、草抜き地獄になってしまいそうですから(笑)、現実的なサイズ感だと思います。


中島

ええ。本当にきれいな苔庭を作ろうと思ったら、川沿いのような常に湿気があって日が当たらない場所が理想なんです。住宅の庭でそれをやろうとすると、どうしても家自体がジメジメと寒々しい雰囲気になってしまう。

安田

ああ、確かに。川沿いの日陰って、夏は涼しくていいですけど、冬場に見るとちょっと寂しい風景になりますもんね。

中島

そうなんです。家はあくまで人が住む場所ですから、苔のために環境を合わせすぎると、人間が辛くなってしまうんですよ。

安田

は〜、なるほどなぁ。苔が喜ぶ環境は、人間にとってはちょっと住みにくい環境なんですね。そう考えると、石の手水鉢の周りに少し苔がむしているくらいのバランスが、現代の生活にはちょうどいい「静寂」なのかもしれませんね。

中島

そう思います。春から秋にかけて適度に水を撒いてあげれば、5平米くらいの苔なら枯らさずに維持できます。水音を聞きながら、少しの手間をかけて苔を愛でる。それくらいの距離感が、現代人にとっての心地よい「和」なんじゃないでしょうか。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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