第80回 盆栽が鉢以上に大きくならない理由

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第80回 盆栽が鉢以上に大きくならない理由

安田

今回は、「手間をかけずにお庭を楽しむ方法」について、いろいろお聞きしてみたいなと。中島さんはお庭に植える木を選ぶ時に、「手間がかからない」という点も重視されていますよね。


中島

そうですね。お庭は美しい景観を保ちながらも、日常生活で快適に過ごせる空間であることが大切だと考えていまして。そのためにも、なるべく管理の負担が少ない木を選ぶようにしています。

安田

以前雑木のお庭がブームになっているというお話を聞きましたが、雑木なら維持の負担が少ないから、という理由もあるんでしょうね。


中島

雑木といっても様々なタイプがあるので、選び方は重要なんですけどね。ともあれ、中には成長が遅い木もありますので、そういう木を選べば比較的手軽に楽しんでいただけると思います。

安田

ちなみに私はイチョウがすごく好きなんですが、お庭に植えると大きくなりすぎるということでしたよね。そこでふと、植木鉢ごと地面に埋めてしまえばいいんじゃないかと思ったんです。植木鉢で育てれば、限界以上には大きくならないわけで。


中島

ああ、なるほど。発想としては面白いんですが、どうしても水が抜ける穴を作らないといけないんです。そうするとそこから根が出てきてしまって……

安田

ああ、そうか。つまりその穴から根が広がって、結局は大きくなってしまうと。


中島

そうなんです。植木鉢をそのまま地面に置いても、数年で根付いてしまうと思います。それくらい木は強いものでもある。人間側が大きさを管理するのはなかなか難しくて。

安田

ふ〜む。じゃあ、もし水はけはいいけど穴は開いていない、という鉢ならどうですか?


中島

うーん、そういう素材があれば可能だと思いますけど、結構な強度がないと根が突き破ってしまうと思いますね。成長が早い木は根が伸びる力も強いので。

安田

ははぁ、それほど木の力は強いものだと。ん、でもだとしたら、植木鉢や盆栽はなぜ鉢を破壊するほどの大きさにならないんでしょうか。


中島

植木鉢だと土の量が限られていますし、地面に直接接していなければ他からの養分が供給されないので、ある程度のところで成長がストップするんです。定期的に植え変えたり、根を剪定するので、そこまで大きくならないように管理もできますし。

安田

そうかそうか。「地面に埋める」ということがなければ問題ないわけですね。それに確かに盆栽って年に1回根を切りますね。それは大きくなりすぎないようにするためでもあったと。


中島

そうですね。そういう理由もありますし、根が密集しすぎると水が行き渡らなくなるので、定期的にほぐす必要もあって。

安田

なるほど~。つまり植木鉢や盆栽にしても、その状態を維持するには相応の手間がかかるわけですね。


中島

ええ。少なくとも何年かに一度は手を入れないといけないと思います。例えば水をあげた時に鉢底からスッと抜けなくなったら、植え替えのサインです。盆栽に限らず、植木鉢に植えている木は定期的に植え変えた方がいいですね。

安田

ふ〜む、確かに長く植え替えしないでいると、鉢の中が根っこだらけになっていることがありますもんね。でも大きな鉢に植えたらそのサイズまでどんどん成長しませんか?


中島

そうですね。もともと大きくなる性質の木は、スペースと養分があればどんどん育ちます。

安田

ああ、そういうことか。それをある意味鉢で制限しているわけですもんね。なるほど。でもそうなると、ちょっと木がかわいそうにもなりますね。本当は成長したいのに無理に止めているわけで。

中島

そうですねぇ。なので盆栽のように鉢で育てるものであっても、大きくしたくない場合は、成長がゆっくりな樹種を選ぶのがいいと思います。

安田

そうかそうか、なるほど。ちょっと雑木の庭の話に戻りますが、以前のお話では、ブームになりすぎて雑木自体が山から減っているということでしたよね。それが過熱して完全になくなってしまう、なんてことはないんですか?

中島

雑木は畑で生産することもできるので、なくなることはないと思います。ただ畑で育てると、自然の山で育ったものとは違って、まっすぐに伸びた木ばかりになってしまうんですが。

安田

なるほど。あの独特のグネグネ折れ曲がったような風情がなくなってしまうと。

中島

ええ。だから中にはわざと曲がるように育てていることもあるくらいで。

安田

そうなんですね! なんだか無印良品の「割れた干し椎茸」の話を思い出します。品質はいいけど割れてしまって正規品としては出せないものを、まとめて売り出したことが無印良品の始まりだったらしいんです。

中島

そうだったんですか。「無印だけど良い品」というのは、そこから来ていたんですね。

安田

ええ、まさに。でもそれがヒットして品薄になった結果、きれいなものをわざわざ割ってまで「割れ椎茸」として販売した、という本末転倒のような話があって(笑)。

中島

確かに雑木と似てますね。かつては使い道がなくて不要だとされていたものが、人気になった途端、わざわざ育てるようになるという。

安田

しかも山で育った木に近づけようとして、人工的に曲げて育てたりしてね。本当に、人間って不思議ですよね(笑)。

 

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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