第93回 人の手で作る「自然らしさ」とは

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第93回 人の手で作る「自然らしさ」とは

安田

人が手を入れないと森は荒れる、って聞いたことがあるんですけど、あれって本当なんですか?


中島

そうですね。放っておくと木が密集したり、折れた枝がそのまま残ったりしてしまうので。だからある程度手を加えた方がいいですね。

安田

なるほど。でも森が「荒れる」って、誰目線なんでしょう。人間から見た景観が悪いという意味なのか、それとも動植物にとっても不都合な状態なのか。人が手を加えた森って、木がまっすぐに整っていて、たしかに綺麗なんですけど、どこか不自然にも感じてしまって。


中島

確かに。「美しい」というのはあくまで人間目線の感覚ですもんね。

安田

ええ。とはいえ人間も自然の一部ではあるわけで、人が関わること=自然を破壊すること、とも言えない気がして。中島さんはよく山に行かれるじゃないですか。手の入った森とまったく手つかずの森だと、どちらが健康的に見えます?


中島

僕の場合は職業柄どうしても「ここは整えた方がいいな」という部分が目についてしまいますね。折れた枝や倒木がそのままだと、あまり美しくないなと感じるので。

安田

ふ〜む、なるほど。そういえば国立公園とかでも実は結構手が加えられているって言いますもんね。


中島

ええ。見た目を整えるというだけでなく、風通しや生態系のバランスを保つためにも手入れは必要だと思います。まぁ、自然本来の姿としては、弱い木が枯れて、強い木が生き残るのが自然なのかもしれませんけど。

安田

いわゆる弱肉強食の世界ですよね。自然淘汰の世界というか。


中島

そうなんです。そのあたりの議論はすごく難しいですよね。どちらが正解、どちらが間違い、とはっきり決められるものではないので。

安田

確かにね。「手つかずの森が残ってます」ってPRしてる地域もありますけど、本当に手つかずだったら人間は危なくて入れないし、見た目もゴチャゴチャして美しくないはずで。


中島

あくまで人間目線で考えるなら、ある程度は整えてあげることが正解、ということになるのかもしれませんね。

安田

なるほどなるほど。ちなみにそれって庭も同じですよね。あまりにも自然のままだと美しくない。人が適度に手を入れることで、初めて「景色」になる。


中島

仰るとおりです。庭の木も手入れしなければ枝が暴れてしまって、見る人にとって心地よい空間にはなりませんから。

安田

人間も髪が伸びたら整えるじゃないですか。それでサッパリして気分が良くなる。木も同じで、剪定されることで「気持ちがいい」と感じているようにも見えるんです。それは人間の勝手な想像なんでしょうか。


中島

いや、でもその感覚はわかります。丁寧に手入れされた木は、生き生きして見えますもんね。一方でブツブツに切られしまった街路樹のように、病気みたいに見えることもある。

安田

ですよね。そう考えると、人間は環境を破壊するばかりじゃなく、いい影響もあるんじゃないかとも思えるんです。

中島

そうかもしれません。実際、昔の里山って人の手が入りながらも自然とうまく調和していましたし。

安田

里山が自然と人里の境界線になっていたんですよね。山にも適度に餌があって、かつ里山があるおかげで野生動物も人里までは降りてこなかった。いろんな意味でバランスが取れていたんでしょうね。


中島

僕もそう思います。里山があることで、自然と人間の境界がうまく保たれていたんだと。

安田

そういう関わり方、つまり人間が手を入れながらも環境破壊にならないような関わり方って、絶対にあると思うんですよ。庭だけじゃなく、山や森にも。

中島

そうなんでしょうね。風通しを良くしたり、ツルが巻き付いて枯れるのを防いだり。少し手を入れるだけで、ずいぶん変わると思います。

安田

以前、屋久島に行ったことがあるんですけど、苔の美しさや川が流れる景観が、整っているけど不自然じゃないんですよ。倒木がきれいに片付けられていたり、光が入るように工夫されていたり。いかにも「人がやりました」って感じではなくて、さりげなく整えられている。

中島

まさにそれが理想的な関わり方のような気がします。

安田

でも中島さんのお庭がまさにそんな感じじゃないですか。使いやすくて美しい。でもすごく自然に見えるというか。

中島

ありがとうございます。そこはかなり意識して作っていますね。

安田

ああ、やっぱりそうですよね。見た目は美しいし使い勝手もいいんだけど、「人間が作りました」と見えないように作られている。

中島

ええ。でも本当の自然そのものではない。人が介在することで初めてできあがる空間なんですよね。

安田

そのバランスが面白くて、すごく魅力的だと思いました。そういう意味では、中島さんが一つの山を手入れしたらどんな景色になるんだろう、と想像してしまいます(笑)。

中島

山全体の手入れですか(笑)。あまり考えたことなかったですけど、面白そうですね。邪魔な枝や木を適度に整理して、美しい山を作れたらいいなと思います。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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