「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。
第43回 人に執着するのはいいこと?悪いこと?
西崎さんって、社員には辞めてほしくない人じゃないですか。とはいえ、これまでに辞めてしまった社員さんもいると思うんですよ。聞きづらい話ですけど、一番悲しかった、しんどかった辞められ方ってどんなでした?
うーん、なるほど(笑)。まぁでも、退職と言っても全部が全部ネガティブなものではないですからね。他にやりたいことができて、ステップアップするために辞めていく人もいるわけで。
もちろんそうだと思いますが、すごくショックを受けるような辞め方をされちゃう場合もあるじゃないですか。これはもう経営者さんならみんな経験あると思うんですけど。
そうですね…実はもうそういう思い出がいま頭の中を駆け巡っているんですけど(笑)。
やっぱり(笑)。じゃあまずは私の辛い思い出を聞いてもらおうかな。あれはまだワイキューブに社員が4~5人しかいなかったころの話なんですけど。
へぇ! かなり初期の頃ってことですね。
ええ。そこに新しい社員が入ってきた。で、幹部の人に言われたわけです。「あの子とランチに行ってあげてくれ」と。要は社長自らにビジョンを語らせて、モチベーションを上げてもらおうという狙いだった。
うんうん。確かにその方が伝わるものが大きそうですもんね。
それでランチに行きまして、あれこれ話したんですよ。そしたらですね、なんとその日の夕方に辞表を出されちゃって。
ええ!? どうして?
「あんな社長にはついていけません」ってことだったみたいですね…いやぁ、あれはさすがの私もショックを受けましたよ(笑)。
それはなんというか……辛かったですね(笑)。
それだけじゃないですよ。これもまた別の新卒社員でしたけど、すごく頑張ってくれていて。だからこっちもすごく手をかけて育てていたんです。でも半年した頃に急に辞めると言いだして。
あら……転職したくなっちゃったんですかね。
ええ。しかもその転職先がウチのクライアント先だったんですよ。要は引き抜かれちゃった。あれもショックでしたね。人間不信になりそうでしたよ(笑)。さぁ、私は白状しましたよ。次は西崎さんの番です(笑)。
いや…うーん、そうですね。詳細は省かせていただきますけど、今の安田さんの話のもう少し大きいバージョンと言うか。
…もしかして他の社員を連れて辞めていかれちゃった、みたいな?
そういう感じです。実際に連れて行かれちゃったわけではないんですが、辞める時に10名以上の社員に「一緒に来ないか」と声をかけていたみたいですね。
ははぁ、確かにそれはショックを受けますね。
まぁ彼には彼の言い分があるはずなので、ここで何かを言いたいわけではないんですけど。
なるほどなぁ。じゃあそういうケースの場合はさすがに落ち込むけど、前向きな退職・転職だったら全然応援するよ、っていうスタンスですか。
ええ、そういう感じです。もっとも、最初の頃はやっぱり毎回落ち込んでましたけどね。特に最初の退職者が出たときは悲しかったな。
そりゃそうでしょうね。でもそう考えると、経営者ってだんだん慣れてきちゃうんですよね。社員が辞めていくことに。
そういう面は確かにあるかもしれませんね。毎回落ち込んでいたら仕事にならないので。
仰るとおりで。だから私なんかは最近、人への執着自体から自由になりたいと考えてしまうんです。社員もそうだし別の人間関係でも、出会いや別れに一喜一憂したくないんですよ。
それはまたすごい話ですね。僕はまだそこまでは思えないなぁ。
別に心が動かされてもいいじゃないか、それが人間なんじゃないか、って感じですか。
そうですねぇ。何も感じなくなりたいとは思わないかなぁ。ただ、確かに「執着」というのはないほうがいいのかもしれませんね。出会いに喜んだり、別れに悲しんだりはするけど、それにすがったりはしないという。
もちろん仰ることはわかりますし、実際それでいいんだと思います。ただ私はもう年齢も年齢なので、「感情に影響されず行動できるのが成熟した人間なんだ」だ、と考えてしまうんですよね。
へぇ~、なるほど。僕にはまだわからない境地です(笑)。でも例えば自分が社員だとして、辞めますって言った時に社長が完全な無感情だと「え?」ってなりませんか? 驚きも悲しみも怒りもせず、たただ無だったら。
ああ、確かにねぇ。そういう意味ではやっぱり、西崎さん仰るように「人間らしさ」はある程度必要なのかもしれませんね。
まぁ少なくとも、卒業していった元社員を潰しにかかるような社長にはなりたくないなぁ。
ああ、いますもんねそういう人。独立した元社員を邪魔するみたいな。
そうそう。そういう「人間らしさ」はいらないなと思います(笑)。
対談している二人
西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社 代表取締役 最高経営責任者
1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数19万人とSNSでの発信も積極的に展開している。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。