第73回 「株式会社」から「新株式会社」へ?

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第73回 「株式会社」から「新株式会社」へ?

安田

私が今やっているのが、「社員を雇わない、全員株主で全員取締役」っていう会社なんですね。お金ももちろん出してもらうけど、それだけじゃなくて労力も出すという形です。


西崎

ユニークな形態ですよね。そこにはどんな狙いがあるんです?

安田

今までは、資本家・経営陣・労働者が分かれていたじゃないですか。資本家はお金を出して、経営陣を雇って、経営者は社員を雇って利益を上げて、配当すると。でもその資本主義の根幹のユニット自体が、もう賞味期限切れなんじゃないかと私は思っていて。


西崎

ほう、それはどういうことなんでしょう?

安田

会社って、社員には給料以上に働いてほしいと思ってるけど、社員はもらう給料以上には働きたくないわけじゃないですか(笑)。あるいは会社側は「なんでキミの成長のための研修費を会社が出さなきゃいけないんだ」と思い、社員側は「研修の時間にも給料が出るのが当たり前だ」なんて思っている。そもそも思惑が真逆なんですよ(笑)。


西崎

笑。確かにそうかもしれませんね。

安田

それもだましだましやってきたけど、そろそろ限界まで来ちゃってると感じていて。つまり社長が一人でリスクを背負って、利益が出たら総取りするっていうモデルを変えるべきなんじゃないかと。


西崎

なるほど。そういう課題に対する安田さんの答えの一つが、「社員を雇わない、全員株主で全員取締役」というスタイルなんですね。ちなみにその会社では役員報酬とかも出ているんですか?

安田

役員報酬は出そうと思えば出せるんですけど、今は出してないですね。最終的にバイアウトした時に、その収益を分け合うという形にしています。


西崎

ああ、なるほど。ということは皆さんは、安田さんの会社だけで仕事してるわけじゃなくて、自分で別の会社を経営していたりするわけですね。

安田

そういうことです。みんな自分の本業があって、それとは別に「こういうこと一緒にやったら面白いよね」っていう感じで集まっているんです。5年後10年後に事業が大きくなったらバイアウトしてもいいし、逆にバイアウトしなくても儲かるようになったら、配当という形でみんなで取り分ければいいかなと。


西崎

いいですね〜。ちなみメンバーの中には普通に会社に勤めてる人もいるんですか?

安田

今のところ、どこかに勤めながら役員をしている人は一人もいないですね。


西崎

ああ、やっぱりそうですよね。話を聞いてて、一般的な会社員の人がリスクを取ってそこにベットするって、なかなかしないだろうなと思ったので。

安田

そうですね、しないと思います。やっぱりこれは経営者の感覚なんですよね。世間一般の会社員さんからすれば「もし結果が出なかったらゼロだよね」っていうところに耐えられないでしょう。


西崎

むしろマイナスにもなり得ますもんね。しかも労力も時間も出して。…でも、そのリスクに耐えられない場合、やっぱり資本家に雇われて働く以外の選択肢がない。

安田

そうです。でも、どのみち人間って生きてるだけでリスクがあるわけで、自分の人生のリスクは自分で背負わざるを得ない。逆にそれを背負わないことで、果たして何か得るものがあるのか? という矛盾に、みんな気づいていくんじゃないかなと思ってるんです。


西崎

もし気付いていったらどういう変化が起こりますかね?

安田

端的に、仕事ができる人ほど会社を出て、フリーランス化していくでしょうね。そういう優秀な人たちがフリーで自由に稼ぎながら、複数の会社と取引をするようになる。そういう働き方が当たり前になっていくだろうと思います。


西崎

なるほど。そうなると確かに今までの資本主義というか、「お金の稼ぎ方」のイメージがだいぶ変わってきますよね。

安田

そうなんですよ。で、「雇う側だけが金持ちになって、雇われる側には制限がある」って今までの構造と比べた時に、どっちに優秀な人が集まるかといったら、私は絶対に後者だと思うんですよ。自分では「新株式会社」と呼んでいるんですけど。


西崎

新株式会社ですか(笑)。考え方としてはすごく面白いなと思いますよ。ただ、それが一般的に普及するかって言われると……正直なかなか難しいんじゃないかなと。

安田

まぁ確かに。特に日本では難しいのかなぁとも思ってます。


西崎

結局、今と大きくは変わらないんじゃないですかね。一部の「リスクを負ってでもやりたい」っていう人たちがお金も労力も出して、もしかしたらマイナスになるかもしれないけど、うまくいったら大きなリターンが得られる。まさにいま安田さんご自身がやっているようなことですけど。

安田

そうですねぇ。そっち側にチャレンジする人がどんどん増えたらいいんですけど。


西崎

同感です。お金的なことだけじゃなく、そっちの方が単純に楽しいと思いますし。

安田

そうそう、そうなんですよ。私も「お前は大金を稼ぎたいから経営をしているのか」と言われればそうでもない。お金があるに越したことはないけど、それ以上に面白い事業をやっていたいし、それを多くの人に知ってもらえることの方がずっと嬉しいんですよね。そういう意味では、ちょっと特殊な人種なのかもしれないなと(笑)。


西崎

確かにそうかもしれません(笑)。逆に言えば、今後安田さんみたいな経営者がどれくらい出てくるかですよね。もしかしたら既に、安田さんの周囲には似たような経営者が集まっているのかもしれませんけど。

安田

ああ確かに、私の周囲にはそういう感覚の近い人が多いのかもしれません。端的に言えば、皆さんやっぱりちょっとどこか変わっている(笑)。もちろん収入を増やしたいという気持ちはあると思うんですけど、それ以上に「ワクワクすることがやりたい」「仲間と一緒にやりたい」っていうのが強いんだと思います。


西崎

僕自身もそういう感覚なのでよくわかります。結局、そういう人が起業して新しいビジネスを生んでいくんでしょうね。

 


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数19万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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