第77回 メガブランドはこの先、生き残れるのか

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第77回 メガブランドはこの先、生き残れるのか

安田

カルティエとかエルメスとか、いわゆるメガブランドってありますよね。もともとは小さなカバン屋さんだったのに、世界的な存在になっていった。ただ今後は、個人に最適化されたブランドの方が、価値を持ってくるんじゃないかと思っていて。


西崎

ほう。つまり「みんなが好きなもの」より、「私だけが好きなもの」の方が価値を持つと。

安田

そうそう。たとえばポルシェって、なんであんなに人気があるかっていうと、もちろんデザインや性能が好きっていう人もいると思いますが、やっぱり「みんなが知っていて、そこそこ高くて、乗ってたらすごいって言われる」という、その評価される仕組みがあるからだと思うんですよ。


西崎

なるほど、確かにそういう側面もありそうです。

安田

でも今後はそういう価値ってどんどんなくなっていって、「数少ないメガブランド」から「無数のニッチブランド」の世界になっていくんじゃないかなと。


西崎

ああ、そう言われるとわかる気がします。僕らも目指しているのは、万人受けするブランドじゃなくてニッチブランドなので。中小企業ほどそういう方向を目指すべきだと思うんですよね。

安田

ああ、まさにトゥモローゲートさんの方向性ですよ。


西崎

はい。僕たちは「大きな会社になろう」と思っているわけではないし、かといって「安い会社でいい」とも思っていない。自分たちが「こういう会社づくりがしたい」と思えるものを、共感してくれるお客様とだけ取引していくというスタンスを取っています。

安田

それによって濃いファンができて、結果として売上も上がって、利益も確保できて、事業が継続できるということですね。素晴らしいですよ。お客さんの数はそこまで多くなくても、強烈に「欲しい」と言ってくれる人に届けばいいわけですから。


西崎

仰るとおりだと思います。まぁ、メガブランドはメガブランドなりの戦略があるとは思いますけどね。

安田

まぁそうなんですけど、たとえばエルメスも30万のバッグとは別に、スカーフ12万円くらいの入り口商品を作っているわけですよ。そうやって少しでも新規顧客を取り込もうとするわけですが、でもみんなが使うようになればなるほど、ブランドのイメージって庶民的になってしまうというジレンマがあって。


西崎

ああ、確かにそれは難しい判断ですよね。会社規模が大きいからこそ、ちゃんと売上も作らなきゃいけないだろうし。

安田

そうそう。だから全体の売上は当然メガブランドの方が巨大なんだけど、たとえば手作りで年間5個しか作れないカバンを職人さんが一つひとつ仕上げていて、それが1300万円で売れたらどうだろうと。利益率で考えたらメガブランドより上かもしれない。


西崎

なるほどなるほど。確かにそうですよね。ともあれ、それはそれですごく難易度は高いと思うんです。無名の職人がバーキン以上に丁寧に作ったバッグを出したとしても、それが300万で売れるかというと、勝手に売れることは絶対にないと思いますし。

安田

確かに。「品質が良い」だけじゃ、限界があるかもしれないですね。知る人ぞ知る、というレベルのブランドでも、たとえば価格でいうと数十万円くらいが限度かもしれない。


西崎

そうですね。それ以外の付加価値があればまた違ってくるんでしょうけど。

安田

それでいうと、エルメスでバーキンを買おうとすると、「新規のお客様には販売できません」「年間○○万円以上購入して、数年通って、特別なお部屋に案内されて……」みたいな演出があるじゃないですか。


西崎

聞きますよね、そういう話。だからこそ価値を感じる、という人もいるんでしょう。

安田

でも個人的には、「そんなの作られた演出だってわかってるじゃん」と感じてしまうんですよ(笑)。たとえばシャンパンも、有名で高級な銘柄が美味しいとは限らなくて、少量生産で小さな農場で作られてるやつの方が美味しかったりする。


西崎

それもあるあるですよね。有名な銘柄はやっぱり広告費もすごくかかっているだろうし、それが価格に転嫁されている部分もあるでしょうし。

安田

そうそう。要は「CM代を飲んでるようなもの」なんですよ(笑)。そしてそのことに消費者がだんだん気づいていく気がするんです。


西崎

でもそれって、安田さんがさっき言ったポルシェの話とも同じだと思うんですよ。100万円のシャンパンに対して、味そのものに100万払っている人がどれだけいるのかっていう。注文した自分への満足感だったり、それを見てる周りの視線が重要な人もいるのかもしれない。

安田

まさにその通りだと思います。そして別にそれが悪いことでもないですしね。だからそういう価値で買い続ける人は今後もいると思うんですよ。ただ、大多数の人はそこまで憧れなくなる気がしていて。


西崎

なるほど。「自分が好きなものを持ってればそれで良くない?」となっていくと。

安田

仰るとおりです。結果、メガブランドは成立しづらくなっていくんじゃないかなと。西崎さんはどう思いますか?


西崎

そうですねぇ。もちろん安田さんの仰ることも一理あるなぁと思うんですが、10年後20年後にメガブランドの価値がなくなる、という風には思わないですね。メガブランド自身、時代に合わせてあれこれ戦略を変えてくると思いますし。

安田

確かにそうですね。たとえば、ハーレーダビッドソンも、昔はうるさい音とかちょい悪なカスタムバイクのイメージがあったじゃないですか。でも今は「健全な大型バイク」として、新たな顧客層向けのビジネスを展開してうまくいっている。


西崎

まさにそういう感じです。そういう変化に従来のファンから反発が出てくることも含めて、ブランディングってやっぱり難しいなぁと思います。

安田

ああ、なるほど。熱狂的なファンが「そんなのハーレーじゃない」と離れちゃったりね(笑)。うーん、そう考えるとやっぱり「長く続いているブランド」ってすごいんでしょうね。


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数19万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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