原因はいつも後付け 第63回「矛盾した思考を持つこと」

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第63回》矛盾した思考を持つこと

「商売には前向きな思考が欠かせない」
皆さんもこう言った言葉を聞いたことってあるんじゃないでしょうか?

確かに商売に限らず、何かを続けていくためには前向きな思考は欠かせません。
だからこそ、世の中の書籍やネットの中にはポジティブを肯定する情報が溢れているのだと思います。

ただ私、別にひねくれて考えようとしている訳じゃないんですけど、このポジティブな思考ばかりを肯定する情報に何だか違和感を感じるんですよね。

なぜなら、創業時の私はひたすらポジティブに店舗経営をしたにも関わらず、全く成果を手にすることは出来なかったからです。

《自分を信じることの重要性》

前向きな思考、ポジティブ。
こう言った言葉とは、つまり目の前にある現象のプラス面に意識を向け、「自分を信じましょう」という事なのだと思います。

当たり前の話ですが、自分で商売を始めた場合、自分の行動を肯定してくれる上司なんているはずもなく、そんな環境においては自分で自分を信じてあげない限り、商売を前に推し進めていく原動力が得られない訳です。

そういう意味においては、「誰よりも自分を信じる」という事は商売に欠かすことができない要素と言えるのかも知れません。

ただ、自らの経験を振り返って考えた時に、ここで1つの疑問が湧いてくるのです。

それが、商売をする上でのチャレンジには失敗が付きものであるにも関わらず、「自分を信じてばかりでは失敗に気づけないのではないか?」ということであり、この疑問を持つことが出来なかったからこそ、私は自らの商売が失敗に向かっていることに半年以上もの間、気づくことが出来なかったのです。

《自分を疑うことの重要性》

「誰よりも自分を信じる」という行動をした結果、私が気づけなくなっていたもの。
それは、いま自分が信じてやっている取り組みが正解ではなく、実は「他の選択肢があるのではないか?」と自らを疑う視点。

商売で成果を上げるためには、自分が選んだ選択を信じて突き進む「誰よりも自分を信じる力」が必要である同時に、常に自分が選んだ選択が正しいのかと「誰よりも自分を疑う力」が必要だと私は思うのです。

自分を信じるだけでもなく、自分を疑うだけでもなく、「誰よりも自分を信じ、誰よりも自分を疑う」という、一見矛盾した思考を両立させ続けること。選んだ選択が成果を得られることを信じて改善を繰り返しつつ、他に選択肢がないのかを常に疑い続けること。

一見矛盾した思考のようにも思えますが、これまでの経験を振り返って考えるのであれば、矛盾した2つの思考を持つからこそ、自分への肯定と否定の間でバランスを取って商売を進めることが出来るのであり、どちらか一方の思考だけで商売を考えている限り、その偏った思考こそが商売を軌道に乗せる大きな障害となるのだと、今では思うのです。

矛盾した思考を持つこと。

自分を疑ってばかりでは前に進むことは出来ず、かと言って自分を信じてばかりでは過ちに気づくことは出来ないのです。

1号店開業の10ヶ月前にポジティブ思考だけで作成した開業計画書。
この時作成した計画を疑う視点を持てなかったことが、事業を軌道に乗せる障害となってしまったのです。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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