第86回 言葉の投資

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

数ヶ月前のことですが、私あることに気がつきました。
それが、私はコンビニで商品を買った時に店員さんに対して「ありがとうございます」を伝えていない、ということでした。

こんな事を書くと、「別にお金を払っているんだから、お礼なんて言う必要ないでしょ」と感じる方もいるでしょう。確かに商品に対する対価としてお金を払っている訳ですから、商売のルールで考えればお礼を言う必要はないのかも知れません。

でも、この考え方って何かが違うような気がしてならないのです。


私がコンビニの店員さんにお礼を伝え続けてきた結果、起きた変化。
それが、よく使うコンビニの店員さんたちが丁寧に接してくれるようになったこと。

そして、店員さんたちの変化に気づいた時、ふと思ったのです。
これって商売で言うところの「投資と回収」に似ているな、と。

「感謝の気持ちを伝える」という投資と、「丁寧に接してくれる」という回収。

もちろん何かの回収を期待してお礼を伝えようと思った訳ではありません。
いつもお店の存在に助けられているにも関わらず、お礼を言うのを忘れてしまっていたから伝えるようにしただけです。

冒頭に書いた「お金を払っているのだから、お礼なんて言う必要はない」という考え方。
これは確かに間違ってはいないのかも知れません。

ただ、こうした「必要最低限のもの以上は出したくない」という思考は、商売に例えるなら「損したくないから投資をしない」という思考に近い気がしてなりません。投資をしない商売は短期で見れば損していないように思えたとしても、長期で見ればその商売が好循環に入ることはないでしょう。

「お金も時間もかからず、リスクもない投資話があるよ。」
こんな話を持ちかけられたら、私たちは疑いの気持ちを持って話を聞くでしょう。

ただ、この話が本当だとするならば、その答えこそ感謝の気持ちを伝えるという「言葉の投資」であり、これほどリスクなく自分の周りに好循環を生み出せる投資ならば、私たちがこの投資を惜しむ理由なんて、どこにもないと思うのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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