第220回 楽しさが失われていく商売

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

私は普段、独立開業されたオーナーさんに対しての経営支援をしている訳ですが、そこに2023年の4月から新しい業務が加わりました。

それが直営店舗の新入社員研修。

直営店舗の研修を担当することになった経緯については今回の本題と関係ないので端折りますが、せっかく久しぶりに新入社員と関わるのであればという事で、既存の研修プログラムを見直し、新たな仕組みを導入してみることにしたのです。


今回、導入した新たな仕組み。
それはオンライン会議のシステムを応用したクイズ形式の研修。

参加者全員が同じ部屋に集まりながらも、個々がオンラインでクイズに対する回答を行い、全員の回答一覧が部屋に設置された大型のモニターに映し出されるという仕組み。

座学の研修は情報提供が一方通行になりがちで、一方通行だからこそ退屈しやすく記憶にも定着しづらいという問題を、クイズという参加型に変えることで楽しんで覚えてもらおうと考えたのです。

参加した新入社員に直接聞いたわけではないため、本人たちの感想は分かりません。
ただ、私が見ていた限り、この形式は上手くいったのではないかと感じています。

というのも、回を重ねるごとに新入社員の方たちが研修内容に対して積極的になっていく姿勢を感じることができましたし、何より自分の回答に対する根拠を説明している表情がみんな楽しそうだったからです。

そして、そんな表情を見ていて、ふと思ったのです。
「クイズ形式にすると楽しくなるのはなぜだろう」と。

この問いに対して考えてみた私なりの答え。
それが「回答を自分で選んだ」という過程であり、自分で選んだ回答だからこそ正解も気になるし、自分で選んだ回答だからこそ結果が正解であれ不正解であれ、その結果を楽しむことが出来ていたように思うのです。

これは商売にも同じことが言えるのではないでしょうか。

私たちは商売になると、なぜか先に正解ばかりを知りたがり、上手くいくかどうか分からない時に「選ぶこと自体を止める」、「いったん現状維持」という行動をとってしまいがちな気がします。

これはクイズに置き換えるならば、正解が確実に分からなければ回答しないという事であり、もし「回答を自分で選ぶ」という過程に楽しさの要因があるとするならば、「選ぶこと自体を止める」という選択こそが、自分の商売から楽しさを奪ってしまう要因になりかねないのではないか、と新入社員の方たちの表情から教えられた気がするのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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