原因はいつも後付け 第44回 「商売における速度と精度」

// 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第44回》商売における速度と精度

今から20年くらい前。
私が営業マンになったばかりの頃、上司からこんな助言をされたのを覚えています。

「お前は1社の提案書を作るのにいつまで時間をかけているのか?」
「お前のこだわりなんてお客さんは分からない。さっさと完成させろ。」と。

これはつまり、当時の上司が私に求めていたのは「速度」であり、その提案書の細かい中身である「精度」にはこだわり過ぎるな、ということ。

一方、当時の私が考えていたのは、営業で成果を出す為に重要なのは、1社1社に提案する内容の「精度」であり、「速度」は二の次だということ。

仕事で成果を出す上で重視すべきなのは、「速度」なのか「精度」なのか?
皆さんはどう思いますか?


「速度」か「精度」か?
この問いは営業職だけに限らず、どの仕事でも同じなのかも知れません。
なぜなら全く同じ問題が、店舗商売においても起きているのを目にするからです。

店舗における、新しい集客や新しい商品。
こういったアイデアを試す時に、どちらを重視した方が良いのか?

その答えはオーナーが大切にしたいこだわりによっても異なるので、一概にどちらが絶対に正しいと言うことは出来ないのかも知れません。ただ、私がこれまで経営してきた直営店舗と、私の顧客であるオーナーの店舗を、「業績という結果」だけで判断するのであれば、正解は明確と言えます。

なぜなら、「速度」を重視しているお店ほど業績は良く、「精度」を重視しているお店ほど業績は伸び悩んでいるからです。

速度を重視しているお店は、思いついたアイデアを多少荒削りな部分があったとしてもいち早くお客さんが買える状態にし、お客さんの反応を見ながら改善を繰り返していきます。結果的に、改善の回数も増えるため、「精度」が高くなるのも早いのです。

一方、精度を重視しているお店は、思いついたアイデアがありながらも、その告知方法やその内容を気にしすぎるあまりスタートまでに時間がかかり、さらに事前に真面目に考えた分、その結果を深刻に受け止めすぎて改善も遅れがちです。結果的に、改善の回数も減るため、「精度」が高くなるのも遅いのです。

そう考えると、冒頭の話で正しかったのは上司であり、間違っていたのは残念ながら私だったということ。事実、精度ばかりを気にしていた当時の私は、同期の中で初受注がビリでしたが、上司の助言に従い速度を上げてみたら、一年後には新規顧客数が一番になっていました。

速度と精度。

商売をする上で、わざわざ失敗したいと思う人なんていないと思います。
ただ、「失敗しないように」と精度を上げようとすればするほど、集客や商品を試す速度は遅くなり、結果的には失敗に近づいていってしまうと言うこと。

「早くはじめる。改善を繰り返す。小さな失敗を気にしすぎない。」

精度を上げるためにやるべきは、やる前からあれこれ考え続けるよりも速度を上げて改善のサイクルを早く回すこと。逆に言うのであれば、速度を上げない限り、精度が上がることもないと言うこと。

「さっさと完成させろ。」という上司の言葉。
当時はこの言葉に心の中で反抗していましたが、今となってはこれ以上簡潔に業績を伸ばす方法を説明している言葉はないような気がするのです。

営業マン時代の私(左)と、速度の重要性を教えてくれた当時の上司。
上司に反抗しているのか、ふてくされている様にも見えます、笑。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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