第170回 売れたカメラに学ぶ商売の切り口

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

いつも読んでいただいている皆さま、今年もどうぞよろしくお願いします。

さて年末年始と言えば、前年に売れた様々な商品の売れ行きランキングなどがメディアで発表されたりする訳ですが、そんなランキングを見ている中で、私たちの商売の参考になりそうな商品がありましたので、今回はその商品について書いてみたいと思います。


2022年、ソニーが発売している「あるデジタル一眼カメラ」が、売れ行きランキングに長く登場していました。その商品というのが「ZV-E10」というカメラ。

この商品が売れた原因はもちろん1つではないと思いますが、私なりにこのカメラが売れた原因を考えると、それは「入門編」という切り口だったのではないかと思うのです。

このカメラには特徴的な機能が2つ搭載されており、その1つが「背景ぼけ切り替えボタン」。そしてもう1つが「商品レビュー用設定ボタン」。

前者はボタン1つで、スマートフォンではできない一眼カメラならではの背景のぼかしを表現してくれる機能。そして後者はボタン1つで、自分の顔よりも前に出したものに自動でピントを合わせてくれる機能。

この2つの機能は「これから動画での発信を始めてみたい」、「でもカメラの難しいことはよく分からない」といった、デジタル一眼カメラを初めて使ってみたいという方にはニーズのあった機能だったでしょう。

ただ、ここで私が一番重要だと思うのは、実はこの2つの機能というのが新しい技術などではなく、カメラに詳しい人であれば当たり前のように知っている機能であり、他社のデジタル一眼カメラでも表現できる機能だということ。

じゃあ、なぜそんな機能が改めて売れる原因になったのかと考えると、それは「その機能に固有の名前を付け、その機能に固有のボタンを用意した」ところにあると思うのです。

私たちは売上を伸ばそうと考えた時に、どうしても商品数を増やすといった「何かを足す思考」になりがちです。でも、このカメラが売れたという結果から分かるのは、商品や機能を増やすのではなく、今ある商品の切り口を変え、それに名前を付けることで、全く新しい市場を作り出せるという事実であり、これこそが私たち小規模経営にとって大切な思考なのではないでしょうか。

ZV-E10というカメラ。
このカメラが長く売れ続けているという事実は、アイデア次第で売上は伸ばすことができるのだと証明してくれているのと同時に、お店の外に新しい商品を求めるよりも、今ある商品に興味を持ち、切り口を見直してみることの重要性を私たちに教えてくれているような気がしてならないのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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