第7回 髪から始まるパーソナルブランディング

この対談について

「遊んでいるかのように働きたい」をモットーに、毎日アロハシャツ姿で働く“アロハ美容師”こと岩上巧さん。自身が経営するヘアサロン「mahaloco(マハロコ)」には、岩上さんしか実現できない<ココロオドル髪型>を求め多くのお客様が訪れます。その卓越したビジネスセンスの秘密に、ブランディングの専門家・安田佳生が迫る対談企画です。

第7回 髪から始まるパーソナルブランディング

安田

今回は、「マハロコ」で日々お客様に接しておられる岩上さんに、パーソナルブランディングについてお伺いしたいと思います。


岩上

ああ、良いテーマですね。僕も常々大切にしていることなので。

安田

以前岩上さんが「すべてはパーソナルブランディングなんだ」って仰っていたんですが、それについて深堀りしたくて。単に髪型を選ぶだけじゃなく、「自分のブランディングをするんだ」という発想が大事ということですかね。


岩上

ええ。「自分はこういう人間でありたい」「こういう人生を歩んでいきたい」という想いの部分と、その人自身が持っている「持ち味」が重なるようなスタイルを見つけるってことですね。それを提案し、一緒に作り上げていくのが僕の仕事で。

安田

ははぁ、なるほど。つまり「パーソナルブランディング」というのは、単にお洒落にするとか格好良くするって意味ではないわけですね。


岩上

ええ。そもそも美容院に来る方って、ほとんどの人が「前の状態に戻したい人」なんです。ボサボサに伸びちゃったから前の長さまで切りたい。白髪が目立つようになったから前のように染めたい、というような。

安田

ああ、はいはい。そうですよね。つまりマイナスをゼロに戻しにくる。


岩上

そうそう。要は「過去の(いい状態に戻す)スタイリング」なんです。これをやる美容師さんは非常にたくさんいらっしゃいます。一方で、「未来に向けたスタイリング」を目的に来られる方もいらっしゃるわけです。

安田

未来と言うと、これから起こることのためのスタイリングということですか?


岩上

そうそう。例えば成人式なんかがそうですよね。当日どれだけ目立つか、どれだけ素敵な自分を見せられるか、ということが関心事で、過去の自分に戻りたいわけじゃない。

安田

ははぁ、確かに。


岩上

別のケースで言えば、結納の相談を受けたこともありましたね。「結納があるんだけど、どんな髪型にすればいいのかな?」なんて。

安田

へぇ。今どき結納をするって珍しいですね。


岩上

ええ。僕もそう思って聞いてみたんですよ。役人さんとでも結婚するの? って。そうしたら旦那さん側のお父様が警察関係の方だと。僕は「そっか、じゃあそのお父さんに認めてもらえるような髪型にするのがいいかもね」と。

安田

なるほどなるほど。


岩上

それで、「地味過ぎず一歩引いた感じの、奥ゆかしい雰囲気」にするのがいいんじゃないかと提案したら、じゃあそれでお願いしますって、もうそれ以上ビジュアルの話にはならないんです。

安田

ははぁ、おもしろい。ここを何センチ切って、こんな色合いにして、みたいな話にはならないと。


岩上

そうそう。むしろ「相手にどう思ってもらうスタイリングにするか」の提案ですよね。それで僕は相手のお父さんに「息子よ、よくぞ良い嫁を連れてきた!」と思ってもらえそうなスタイリングを提案しました。

安田

うんうん、実際お父さんにそう思ってもらえたら、その後の関係も築きやすそうです。


岩上

他にも、こんなことがありました。髪の毛を真っ赤に染めていたあるお客さんがいたんですが、お母さんが亡くなられて。お葬式をするということで、ウチの店に来たんです。

安田

ああ、お葬式だから、赤い髪を黒く染めに来たんだ。


岩上

仰るとおりです。「こんな真っ赤な髪で参列したら、周りからどう思われるか…」と心配になったんですね。でもね、僕はその方から何度も「母が私の赤い髪をいつも褒めてくれる」という話を聞いていたんです。

安田

ははぁ、なるほど。その亡くなられたお母さんは、娘さんの赤い髪が好きだったんですね。


岩上

そう。だから僕は「お母様とのお別れの会なのだから、お母様が好きだった髪色の方がいいかもしれないよ」と提案したんです。

安田

なるほど……確かに。でも美容師さんとしても、なかなか勇気のいる提案ですね。


岩上

そうですよね(笑)。でも僕がそう言ったら、泣いていたお客さんがニコッと笑顔に変わって。「その通りですね。母の喜ぶ髪型でお願いします」って。

安田

うーん。すごい。確かに、参列者のためじゃなくお母さんのための式ですもんね。とは言えですよ? 「参列者の人にこう見られたい」という気持ちの方が重要なケースもあるような。


岩上

ええ、もちろんそうです。ですから、そのあたりの判断にまで美容師が踏み込んではいけません。あくまで「お客さん自身の気持ち」に沿って提案を行います。

安田

ああ、なるほど。その人の理想や、事情や、考え方に寄り添った提案をするんですね。


岩上

そうそう。だからこそ普段の何気ない会話がすごく大事なんです。人となりを知っていないと、なかなかいい提案はできませんから。

安田

ははぁ、なるほどなぁ。でも一方で、「周りと同じ髪型にしないと不安」みたいな人も多いじゃないですか。例えば就職活動中の髪型なんて、みんな同じでしょ?


岩上

ああ、確かにそうですね。できるだけ悪目立ちしないように、みな同じような髪型にしてますよね。

安田

そうそう。ただね、私はむしろ、そこで個性をPRした方がいい時代になってきてると思うんです。企業側だって、本当のその人自身のことを知りたいわけで。


岩上

仰るとおりだと思います。「就職活動用に用意した姿」を見たいわけじゃないですもんね。もっと本質的な、その人の人間性を見たいと思っている。

安田

そうそう。むしろ面接官は、その「仮の姿」を引き剥がして、本当の中身を見ようとするわけで。


岩上

そうでしょうね。そういうこともあってか、最近は「面接は私服で着てください」っていう企業も増えてるそうですね。

安田

へぇ、それはすごくいい風潮だと思います。ちなみに岩上さんの体感だと、「パーソナルブランディング」を明確に意識している人はどのくらいいますかね?


岩上

うーん。割と多いと思いますね。特に自分で事業をやっていたり、副業を頑張っている人は全員意識してると思います。例えばヨガのインストラクターになる人は、髪型も服装もヨガインストラクターっぽいですよね。そもそも好きが高じてなっている人が多いというのもありますけど。

安田

なるほどなるほど。でも考えてみれば、そういったブランディングも「未来に向けたもの」ですもんね。もっと素敵な自分になって、それを周囲に見せることでお客さんも増えていく。


岩上

そういうことですね。要するに、髪型を通じてその人の人生をよりよいものにしていく。そのお手伝いができたら嬉しいなぁといつも思っているんです。


対談している二人

岩上 巧(いわかみ たくみ)
アロハ美容師/頭髪改善特許技術発明者/パーソナルブランディングプロデューサー/株式会社 OHANA 代表

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美容専門学校卒業後、都内のサロンに就職するも、オーナーと価値観の違いから大喧嘩し即クビに。出身地である水戸に戻り実家の美容室で勤務しながら技術を磨き、2008年自身のヘアサロン「mahaloco(マハロコ) 」をオープン。結婚式のプロデュースやイベント企画なども行うパーソナルブランディングプロデュースサロンとして人気を博す。2014 年、髪質改善技術「美髪矯正 hauoli®(2021 年特許取得)」を開発。「まるでハワイで暮らしているように」をテーマに、毎日アロハシャツを着、家族・仲間・お客様と共にハワイアンライフを満喫中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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