その45  薄暗い焼肉店で

先日、町の焼肉店で家族と夕飯を食べておりました。

席をロールカーテンで仕切る半個室にいたところ、
あとからとなりの席にやってきたお客さんの会話が
まる聞こえで入ってきました。

居酒屋で元気のいい若者グループに騒ぐ声をずっと浴びせられると
こちらの空気がしぼんでしまうように、
近い距離でひとさまの会話が聞こえてしまうのに
負けじと声を張れるわけもなく、
われわれはもくもくと肉を焼いては頬張っておりました。

となりは二人組の中年の男性のようでした。

男性の一人が取り皿の汚れに不服を述べていました。

薄暗い店内で、天井からのライトだけがあるタイプのお店は、
とりわけ汚れが目立つものです。
それでは食べたくないというのも程度問題ですが、わかります。
男性は店の人を呼び、交換してもらったようです。

しかし、男性は交換されたものにも汚れを見つけたらしく、
先ほどと同じように不満をいい、交換も求めました。

実際どうだったのかは知る由もありません。
男性が神経質であるのか、お店の対応がいまひとつであったのか、
いずれにせよ交換を二回求めるのはなかなか「強い」反応でしょう。

その後、話しているのはほとんど皿の交換を求めた方の男性でした。
おだやかに聞き役に徹している相手の男性とは古い友達のようでした。

話し手の男性は店舗の経営者のようです。

仕事の話、昔の仲間の話、お金の話、政治家の話など
男性の話題はとりとめないものでしたが、
共通していたのは話に登場するモノや人に異議申し立てる、
あるいはダメを出す「強い」姿勢でした。
最後には相手の男性にもそれが向けられました。

「おまえ、まだタバコなんか吸ってるのか。やめろやめろ」

おそらく、彼は強くなければやっていけない環境にいると彼自身は信じ、
それが万事、「強さ」として表れているのだと想像できました。

……でもまあ、気の置けない友達と飯を食っているというのに
3、40分のあいだ一度も笑い声が起こらなかったんですがもしかして、
強いというより

つまんねえやつ

なのではないのかと。

 

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著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

リーマン20年のキャリアを3ヶ月分に集約し、フツーだけど濃度はまあまあすごいエッセンスをご提供するカリキュラム、「グッドゴーイング」を制作中です。

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