第182回 小規模経営にしか語れないストーリー

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

私は個人店のメニューを見た時に、ふと頭に浮かんでくることがあります。
それが「このメニューを考えるのにどれだけの試作をしたんだろうな」ということ。

当然ですが、私たちがお店で見るメニューには完成した商品しか載っていません。ですから、その裏にどれだけの試行錯誤や失敗作があったのかを知ることはできません。

そこで私は思うのです。
「そんなお客さんの目に見えない取り組みの中にこそ、小規模経営のお店しか語れないストーリーがあるのではないか?」と。


お店の商品を自分で考えて、試行錯誤を重ねる。
この仕事を私たちは当たり前のように繰り返し、よりお客さんに喜んでもらえるお店になるための改善を続けます。

でも、そんな私たちが当たり前だと思っている仕事も、視点を変えてみると興味深い事実が見えてきます。その視点と言うのがチェーン店からの視点であり、私たちが当たり前だと思っている商品開発における試行錯誤は、各店舗で商品を開発していないチェーン店からすれば、決して語ることのできないストーリーだと思うのです。

つまり、「商品ができるまでのストーリーは、自分のお店で商品開発をしている個人店や小規模経営でしか語れない」ということ。

私たちはお店の情報を発信しようと考えた時に、ついお店の良い面ばかりを見せようとしてしまいがちな気がします。もちろん、それが悪いというつもりはありませんし、完成した新商品の紹介をwebサイトやSNSで発信するのも大切だと思います。

ただ、ここで私が思うのは、こうした完成した新商品やお店の良い面ばかりを見せようとするほど、その内容はチェーン店と似たような内容になっていき、個人店や小規模経営だけが持つ商品開発のストーリーは伝えられなくなってしまうということです。

「意図的に悪い面を出そう」とは言いませんが、せっかく地域に根ざした店舗商売をしているのであれば、メニューには出てこない自分のお店の取り組みも知ってもらい、その取り組みを知ってもらったことで、さらにお客さんとの会話が生まれていくような関係性こそが、小規模経営をより面白いものにしてくれるのではないでしょうか。

今回は商品開発を例に書きましたが、こんな視点でお店の取り組みを見直せば、商品開発だけに限った話に留まらず、もっと多くの小規模経営にしか語れないストーリーがあるように思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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