本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 |
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。 |
先日、私の兄2人と久しぶりに集まり、親を招待して旅行に行ってきました。
泊まった場所は熱海のとあるホテル。
このホテルは私が小学生だった頃、親に連れて行ってもらったホテルで、かつては熱海の中でも豪華な設備で有名だったものの、老朽化とコロナの影響で2021年に閉館となっていました。
今回、そんな思い出のあったホテルがリニューアルを経て営業を再開したと聞き、兄弟3人で親を旅行に招待した訳ですが、実際に泊まってみたところ、このホテルの再建には私たちが商売で大切にするべき取り組みがあったように感じたのです。
今回泊まったホテルの再建コンセプトは「昭和98年、昭和レトロ」との事で、昭和時代の雰囲気を意図的に残してリニューアルしたらしく、確かに館内の照明から部屋の椅子やテーブル、暖房機器にいたるまでが当時のままとなっており、まさしく昭和レトロが感じられる空間。
リニューアル後の営業は順調なようで、ネットやテレビで報じられていたこともあってか、宿泊した日は平日だったにも関わらず、多くのお客さんが宿泊しているようでした。
ここまで書くと、単なるホテルのリニューアルオープンと思われるかも知れませんが、実際に現地で体験してみた印象としては、そんなに簡単な話ではなかったのではないかと感じたのです。
というのも、熱海の海岸に面したホテルは私が子供の頃に見た景色とは異なり、ほとんど全てが綺麗に建て替えられており、機能性や快適性という面で宿泊先を考えるのであれば、間違いなく今回泊まったホテルが真っ先に選択肢から外れていたでしょう。
2021年にホテルの閉館を報じた記事によると、このホテルは閉館時に相当な負債を抱えていたようで、そう考えると実際は「昔の雰囲気を残した」というよりも、「昔の雰囲気を残さざるを得なかった」というのが正しいのかも知れません。
つまり、このホテルには他の選択肢がほとんどなかったのではないか、ということ。
このように自分に選べる選択肢が少ない時、他店の環境を羨んでしまいたくなるのは開業時の私だけではないでしょう。
ただ、私たちが商売をしていく上で大切にすべきなのは、今回のホテルのように「いま自分が持っているもの」に注目し、そこから他店にはない切り口を見出し、その切り口によって自分の商売ならではの価値を作り出すことではないでしょうか。
もし、今回泊まったホテルが他と同じように最新の設備でリニューアルしていたら、私はこのホテルに泊まったのかと考えると、恐らくそうはしなかったでしょう。なぜなら、最新という価値は他のホテルでも体験できる価値であり、それならばもっと立地も良く、価格も安いホテルがあったからです。
お金をかければ昭和レトロ「風」は作れるかも知れませんが、長い年月を経てきた本当の昭和レトロは作れません。そう考えるのであれば、新しく建て替えた多くのホテルこそが競争に加わる選択であり、たとえその選択肢が自分になかったとしても、他店を羨むのではなく、自分が持っている価値に注目したからこそ、このホテルは再び脚光を浴びることができたのではないかと思うのです。
私自身、小学生だった当時の記憶はあまりなかったものの、少なくとも親の反応を見た限りでは、このホテルが当時の雰囲気を残していたからこそ、そこに懐かしさや喜びがあり、この感情こそが他店には決して真似のできない価値なのだと身をもって学ばせてもらったのです。
著者/辻本 誠(つじもと まこと)
<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/