この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
本来、労働法には「崇高な目的」があったんですよ。
それは、どのような?
「1分単位で収益を競わせ、その競争で勝つ会社が生き残る」という。
崇高というより、かなり厳しい目的ですね。
それによって「日本の生産性を高める」というのが、崇高な目的なわけです。
「生産性の低い会社は、退場してくれていいよ」と。そもそも、そういうルールだったということですね。
そうです。
だけど、そこまで厳しくすると、中小企業はやっていけない。
はい。だから「なあなあ」で、ここまで来た。
それでも人口が増えている間はGDPも増えてた。だから見て見ないフリをしてた。
そういうことですね。
でも人口減で、このままだったら、日本のGDP総額はどんどん減って行く。
はい。だから生産性の低い会社は、退場させるしかないんですよ。
その退場させるルールというのは、「1分ごとに労働時間を計れ」ってことと「残業はさせるな」ってことなんですか?平たくいえば。
2027年までに、働き方改革のロードマップというのがありまして。
ロードマップ?
はい。そのメインテーマはふたつで「ルールの1本化」と「働き方の多様化」。今回の労働法の改正は労働時間がメインで、労働時間の可視化と、長時間労働に対する制限。
罰則もあるんですよね?
あります。
残業代をちゃんと払ったとしても、長時間労働はダメってことですか?
そうです。今までは金で解決してましたけど、それはダメ。
金すら払ってない人は論外?
論外です。金すら払ってない人は、すでに捕まってます。
じゃあ、これから捕まるのは「金は払ってるけど、長時間労働させた」経営者ということですか?
そういうことです。
たとえば、残業しないと回らない会社ってあるじゃないですか、現に。そういうところは「もう潰れてくれていいよ」ってことなんですよね?
その通りです。
でも安倍さんは、そんなこと「ひとこと」も言ってませんけど。
直接的に言ってないだけです。
間接的には言ってると?
だって、改正の中身を見たら、そういうことじゃないですか。
見て、察してくれと。
そうです。今の日本って、非常に高コストの国なんですよ。世界に比べて中小企業が多いから。
多いと、非効率なんですか?
これからは役所の人も少なくなるし、企業の数が多いっていうのは経済合理性が低いってことです。
多すぎるから、減らすと?
基本的に多すぎるので「ちょっとぐらい減ってもいい」という感じですね。
何と!
あと、起業する数がすごく少ない。
起業する数が少ないなら、今ある会社を残した方がいいのでは?
起業する数が少なくて企業数が多いってことは、ゾンビみたいな企業がいっぱい残ってるということなんですよ。
「100年以上続く会社が多い」というのが日本の自慢だと思うんですけど。
「実は続いてるとは言えない会社」が、いっぱいあるってことです。
なるほど。
あとは、雇用の流動性の問題。
流動性?
はい。人がこれだけ減ってるのに「生産性の低い会社」も補助金なんかで救済してきたわけです。
それは、何のために?
「中小企業を守るため」という票集めですよね。
票集めは、これからも必要じゃないんですか?
必要なんですが、今の政権は強いですから。だから今のうちに、やらないといけない。
そんなに切羽詰まってるんですか?
これ以上放置できない理由が、ふたつあります。
ふたつ?
はい。ひとつは「介護のような不人気の仕事」に、人を移動させなくてはならないこと。
どうやって移動させるんですか?
儲かってない、生産性の低い会社がなくなれば、そこから人がバーッと出てくる。
なるほど。そういう会社でも、結構しがみついてる人はいますからね。
はい。もうひとつは、日本独自の終身雇用。
終身雇用が問題だと?
優秀な人材が流動化せずに、死んでいってしまう。
死んで行く?
たとえば、私の就職活動時は、家電メーカーに入ると「すごい」と言われました。でも今家電メーカーって、ちょっと微妙じゃないですか?
微妙ですね。
そうすると、当時一番いい会社に入った優秀な子が「巨人に入ったと思ったら、巨人じゃなくなってる」みたいな。
入ってみたら、ロッテだったと(笑)。
流動性が高くなれば、フリーエージェントしてまた他の球団に行ける。
そのために「労働生産性の低い会社」は、どんどん整理して行くと。
はい。人材がそもそも足りないので「生産性の低い会社」から「生産性の高い会社」に移したい。それが本音だと思います。
新しい会社はどうなんですか?「どんどん起業させていこう」という方針なんですか?
それは、すごくあると思います。
中小企業って400万社とも500万社とも言われてますけど、その数自体を減らそうということではない?
そういうことじゃないと思いますね。
生産性の低い企業を、なくしたいだけ?
その考えが基本ですね。
ぶっちゃけ何割ぐらい「潰れてもいいよ」と思ってるんですか?安倍さんは。
やさしめの2割って感じです。
やさしく見て「2割はもうなくなってくれていいよ」と?
そうですね。短期的には。
今までは「あの手この手」で救済してきたじゃないですか。バラマキとか。
はい。過去はそうでした。
これからは、もう救済はしないと。
そうです。
潰れたら、介護とか外食とか、人が足りないとこに行ってくれと。
人が足りないけど必須な事業。それか生産性の高い会社。
どちらかに行けと。
そういうことです。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。