第13回「タフなのか鈍感なのか」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第13回「タフなのか鈍感なのか」

安田

「じつは辞めたい」と思ってる従業員って、たくさんいるでしょうね。

久野

2人に1人が、辞めたいと思ってるそうですよ。

安田

まあ、そのくらいは、いるでしょうね。ところで外食のアルバイトが辞める理由の1位知ってます?

久野

外食ですか?

安田

はい。基本的に不人気業種なんですけど。

久野

やっぱり、人間関係じゃないんですか?

安田

そう思いますよね?でも違うんですよ。人間関係は辞める原因の第3位。

久野

そうなんですか?

安田

辞める理由の第1位は「仕事を教えてくれない」こと。で、第2位は「お店が暇」っていう理由らしいです。

久野

意外ですね。

安田

ですよね。私だったら、忙しいより暇な方が楽でいいですけど。

久野

「教えてくれない」って、どういうことなんですか?

安田

放置されるってことですね。その疎外感が耐えられない。

久野

なるほど。

安田

逆に、忙しくても「自分が活躍できる場所」があれば、辞めないらしいです。自分の居場所がないのが、一番つらいっていう。

久野

うまく居場所をつくってあげれば、辞めないってことですね。

安田

居場所をつくってあげて、活躍したらちゃんと褒めてあげる。

久野

普通の中小企業と同じですね、そこは。

安田

でも「俺が雇ってやってる」みたい社長さんって、多いじゃないですか。

久野

ですね。

安田

別に「恵んでもらってる」わけじゃないんですけどね。正当な報酬を受け取ってるだけ。

久野

そこは、まだまだ感覚が古いです。

安田

経営者に限りませんけどね。「お金を払ってる側が偉い」って思い込んでる、モンスター客とか。

久野

確かに。でも、少しずつ変わってきているのも感じます。

安田

どういうところで?

久野

たとえば運送とか。昔は「金さえ払えば、無理言ってもいい」みたいな感じだったじゃないですか。

安田

かなり、こき使ってましたよね。

久野

でも最近は、運送会社の方が「そんなんだったら、やりません」って言えるようになってきた。

安田

確かに。今って、お客さん探すより、社員採るほうが大変な時代ですからね。

久野

そうなんですよ。

安田

店員と顧客との関係とか、社長と社員との関係とか、これまでと逆転するかもしれませんよ。

久野

いや、本当そうだと思います。お客さんが嫌いだったら手を抜くこともできるし、好きだったらひと手間加えてあげたりもする。

安田

たとえば小料理屋さんだって、お客さんによって出すもの変わりますから。

久野

そりゃあ、店にも好き嫌いありますもん。

安田

なかなか手に入らない食材とか、好きな人に優先して出してますよね。

久野

お店に好かれたほうが、絶対にお得ですよ。

安田

社長だって、社員に好かれてるほうが絶対に得ですよ。辞めないし、みんな頑張って働いてくれるし。

久野

そうなんですけどね。現実として、そういう経営者は少ないです。

安田

給料を手渡しして「ありがとうございます!」って言われたいんでしたっけ?

久野

何も感謝されないより、みんな「ありがとう」って言われたいものじゃないでしょうか。

安田

逆にした方がいいんですけどね。「もらってくれてありがとう」みたいな。

久野

社員がもらってやる儀式?

安田

社長が、頭下げながら渡すっていう。

久野

それは面白いですね。

安田

ちょっと顧問先で実験してもらえないですかね?採用力が上がるかどうか。

久野

辞める人が減るかもしれないですね。

安田

だって、実際に社長の給料稼いでるのは、社員ですからね。

久野

社長が「ありがとうございます」とか言いながら、自分の給料を受け取るとか。

安田

社長以外の人の椅子のほうが、社長の椅子より立派とか。

久野

昔、やってませんでしたっけ?安田さん。

安田

はい。やって、大変なことになりました。

久野

(笑)

安田

でも、真面目な話、今の時代って「社員に好かれる」価値ってすごいと思うんですけど。

久野

本当におっしゃる通りで。中小企業のビジネスモデルって、やる気によって思いっきり左右されますから。

安田

ですよね。社員のやる気で、かなり業績変わりますよね?

久野

変わります。

安田

社員を連れて飲みに行く社長さんも、自己満足になってることが多い。

久野

分かります。「飲みに連れて行ってやった」という気分。

安田

でも社員はぜんぜん嬉しくない、みたいな。

久野

いい意味で、ポジティブな人が多いんですよ。経営者って、メンタル強くないとできないですから。

安田

強いのと鈍感なのは、ちょっと違うと思いますけど。

久野

まあ、確かに。「社員はみんな喜んでる」と思ってますからね。

安田

「いいもの食べて、またこいつら喜んでるよ」みたいな写真を、FBに上げたり。

久野

「いい肉を社員に食べさせた」みたいな投稿、多いですよね。

安田

久野さんはどうなんですか?社員さんと食事行くんですか?

久野

僕は逆に、怖くて連れていけないです。

安田

本当は嫌がってるんじゃないかと、考えてしまう?

久野

その通りです。

安田

意外と繊細ですね。

久野

繊細なんですよ。もっと強くなりたいです。

安田

弱いぐらいで、丁度いいんじゃないですか。

久野

鈍いよりはいいですか?

安田

鈍感な社長=タフな社長では、これからは通用しないですよ。

久野

確かに。新しく起業してくるような人は、全然タイプ違いますよね。

安田

はい。人と目を合わせられないような繊細な人が、業績の良い会社の経営者だったりします。

久野

繊細さがポイントなのかもしれませんね。

安田

とくに中小企業は繊細じゃないと。すぐに社員がやめちゃいますから。

久野

辞めるとき、みんな、まとまって辞めたりしますし。

安田

そうなったら、取り返しつかないですよ。

久野

でも、そういう会社が多いですけど。

安田

ほんと、ギリギリのところで、何とかもってる感じですよね。

久野

はい、ギリギリですね。いつブワーって辞めても不思議じゃない。

安田

近々そういう波が来るんじゃないですか。

久野

来そうですよね。大きな波が。

安田

鈍感な社長さんも、社員がいなくなったら気がつきますよ。

久野

そうなってからじゃ、遅いですけどね。

安田

もう年配の経営者は、価値観変わりませんから。入れ替えるしかない。

久野

入れ替わるのは社員じゃなくて、社長だと?

安田

はい。鈍感な社長が退場して、繊細な社長の時代になる。そんな気がします。

久野

強さは要りませんか?

安田

弱い部分は、社員が支えてくれると思いますね。だからこそ、好かれることが大事。

久野

私も、嫌われないように気をつけます。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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