第19回「解雇規制の落としどころ」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第19回「解雇規制の落としどころ」

安田

経団連の会長さん、言っちゃいましたよね。終身雇用は無理だって。

久野

まあ、「誰かが言わないといけないから言った」って感じ。

安田

つまり終身雇用がなくなるってことは、お金払って辞めさせることができるってことですよね。金銭解決。

久野

そうですね。そこまでは言っていませんが。

安田

まあ、生産性アップを考えれば。

久野

いずれは終身雇用にも手をつけざるを得ない。

安田

大企業の競争力を高めようと思ったら、上のほうを切らせてあげる以外ないですもんね。

久野

グローバル競争してる会社は、イノベーションを生まない中高年の給与が高いと考えているケースは多いですね。

安田

能力向上の見込みがない中高年でも雇い続けなくてはいけない。

久野

プロ野球チームで考えたら、1回雇った人は活躍しなくてもベンチにずっと入れとくみたいなもんですよ。

安田

どんどん給料も増やし続けないといけないし。

久野

世界のスピード感の中では、能力に応じた支払い方ができなかったら勝てないですね。

安田

そうですよね。

久野

でも、本当に強い企業って、あんまり表には出てこないんですけど、すでにやってますよ。

安田

解雇を?

久野

解雇というか、希望退職や、社風的に居れない環境をつくりだしている。辞めさせるとかではなく、仕事ができないといれない。もちろんいじめとかそういったものもなく会社の文化みたいな。

安田

中小企業だと「どうして目標達成できないのか」「ここまでやってもらわないと困る」という話を何度かすると、従業員から退職したいと言ってくることが多いです。

久野

そうですね。しがみつくイメージはないですね。

安田

でも大企業って、ある意味日本の大学みたいなところがあるじゃないですか。

久野

大学ですか?

安田

入学するまでは一生懸命勉強するけど、入学したら勉強しない。無難に過ごせば卒業できる。

久野

確かに。入社することがゴールになってますね。

安田

ですよね。入社したら余程のヘマをしない限り、もう安泰みたいな。

久野

若いうちはまだ頑張りますけどね。

安田

大学1年生みたいなもんですね。先輩にこき使われて。

久野

で、上級生になったら、あとは安泰みたいな。

安田

大企業の45歳以上って、大学の3〜4年生みたいなものですよね。

久野

現場は若い者に任せて、マネジメントという名の余生みたいな。

安田

でも現場離れて10年とか15年とかたったら、もう使い物にならないですよ。

久野

「昔はこうだった」とか言われても、時代が変わってますからね。

安田

プロの目から見て、やっぱり解雇は合法化されるんでしょうか。

久野

たぶん、法律にはならないと思ってまして。

安田

ほう。

久野

中国を例に挙げると、解雇規制は日本以上に厳しいんですね。でも、実際は解雇してる。

安田

それは、金銭解雇みたいな?

久野

はい。基本はお金を払って、解雇をするそうです。

安田

中国では揉めないんですか?

久野

揉めることも多々あるそうです。ただ中国企業のほうが払うものは払うっていう傾向が強いと聞きました。合理的なんですかね。

安田

日本は合法化しないと、かなり揉めそうですけど。

久野

選挙を考えても、絶対にこの法律は通らないと私は思ってます。

安田

じゃあ、どうなるんですか?

久野

法律にはなってないんだけど「暗黙の了解」みたいな感じになると思います。

安田

まあ、日本らしいと言えば、日本らしいですけど。

久野

「経済がルールを変える」みたいなところもあるじゃないですか。

安田

じゃあ、既成事実を先につくって。

久野

お金を一定額払って終わらせていく、みたいなことは出てくると思います。

安田

でもそれでは、いまの早期退職募集と一緒じゃないんですか?

久野

もっとスピード感をもったやつですね。

安田

スピード感?

久野

いまは「ちゃんと早期退職を募集して」「誰が適正かを判断して」、そのうえで「合理的な理由をちゃんとつけて」みたいな。

安田

それでは遅すぎると。

久野

そういうステップを踏んでいくと、1年とか1年半以上かかってしまうわけです。

安田

もっと速いスピードで行われるようになると。

久野

それくらい世の中のスピードが速くなっているのでそうならざるを得ないのではと。

安田

個人指名で「何々君、いま辞めてくれたらいくら払うよ」みたいな感じですか?

久野

そういうケースが認められるようになっていくと思います。ただし、給与の何年分とか、かなり大きな金額を払う必要があるとは思いますが。

安田

なるほど。

久野

でも、そうなった場合、相当なコストがかかるんです。そのコストが払える会社しか許されない。

安田

だからみんな貯め込んでるんですか?

久野

人を整理するために貯めているわけではないですが、やっぱり次の時代に備えてだと思うんですよ。

安田

次の時代の人員整理に備えて?

久野

人を減らすことありきではないですが、どうしたら次世代の経営をしているかという観点で経営を考えて、実際に決算数字がいい会社でも希望退職などを募っているところもあります。

安田

むかしは本当に業績悪いところがリストラやってましたけど。

久野

今は利益出てるところが「将来の予定が立たない」という理由で退職勧奨をしているので、それだけ企業経営の先行きと将来への不安が大きいのだと思います。

安田

でも合法化しないってことは「これだけ払うから、おまえクビ」とは言えないわけでしょ?

久野

そうですね。要は、社員自身が辞めたほうがいいと思える条件まで出せるかどうか。

安田

たとえば?

久野

5年分の給料を払ってくれるとか。

安田

でも、それで辞めるぐらいだったら、いまでも早期退職に自分で応募しませんか。大手百貨店なんて5000万円ですよ。

久野

早期退職と解雇は、ちょっと違いますから。

安田

早期退職は「辞めてちょうだい」っていうお願い。

久野

お願いなんですけど、指名はありますね。

安田

じゃあ、まず個人指名になって、それぞれに条件提示して。

久野

指し値で。

安田

でも、それでも辞めないっていう人も出てくるじゃないですか。

久野

そこはもう諦めると。絶対に100パーセントは無理なんで、それはそれで許容する。

安田

大体ひとりあたり、いくらぐらいの退職金払うんですか?5年分払うんですか?

久野

いや、払わないと思います。議論では最低1年~3年とか出てます。

安田

じゃあ5年分とか提示されたら、受けたほうがいい?

久野

そんな破格の条件は滅多に出ないでしょうし、その5年間で新しいスキルを身につけることもできるのでチャンスに転じるかもしれませんね。

安田

最終的にはどうですか。45歳以上の何割ぐらいリリースすると思いますか?

久野

なんとも言えませんが、今の時代のスピードだと5割とかですね。わたしも次世代を生き抜く能力があるかといえばないですから、その候補になり得ると思っています。

安田

大手の5割の人材が世の中にグワーっと出てきたら、ものすごいことになりますね。

久野

人不足の中小企業に就職するなど、一旦は再就職など困らないかもしれませんが、最終的に能力向上ができないと同じことが起きます。つまりすべての人が一定の年齢が来たら、学びなおしなど能力のアップデートが必要ですね。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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