第29回「口頭契約はどこまで有効なのか」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第29回「口頭契約はどこまで有効なのか」

安田

最近、闇営業が叩かれてるじゃないですか。

久野

はい。吉本の。

安田

あれは2つ問題がありまして。吉本に内緒で仕事取ったっていう問題と、裏社会との繋がりと。

久野

反社会勢力ですね。

安田

はい。反社会勢力。つまり違法なことをして稼いだ金から、ギャラをもらってしまったという。

久野

問題はそれを知ってたかどうかですね。

安田

知ってたら確かに大問題ですけど。知らなかったら防ぎようが無いですよね。飲食店だって違法な金での支払いを受け取っていたわけだし。

久野

まあそうなんですけど。「報酬を受け取ってない」って最初に嘘をついちゃったんで。あれで信用をなくしてしまいました。

安田

ところで労働法の観点からいくと吉本ってどうなんですか?

久野

かなりグレーっぽく見えますね。

安田

契約書も交わさずに口約束だけで雇うとか。そのくせ副業に関する締め付けが厳しい。労働法的に吉本的はオッケーなんですか?

久野

給与形態がよく分からないんですよ。雇用なのか、業務契約なのか、外形上まったく見えない。

安田

そもそも口頭の約束だけでも契約って成り立つんですか?

久野

成り立つとは思いますけど。

安田

でも、どっちが何言ったかなんて分からないですよ。

久野

雇用する場合は、雇用契約書を明示しなきゃいけないんです。

安田

じゃあ雇用してないからオッケーってことですか?

久野

テレビ見てる感じだと、報酬が0になったり、何千万になったりするじゃないですか。

安田

はい。

久野

あれは雇用契約には見えないですね。

安田

じゃあ業務委託ですか。仕事が入ったら、その分払うみたいな。

久野

そうですね。

安田

でも業務委託なのに「吉本を通さずに仕事取るな」って、これ法的にオッケーなんですか?

久野

法的には、よくないと思います。雇用してるわけじゃないので。

安田

雇用だったら副業は止めれるんですか?

久野

雇用契約に書いてあれば止められます。

安田

書面で説明して「副業しません」ってことに本人が納得すれば?

久野

そうですね。ただその場合は労働契約なんで、1カ月何時間働くとか決まってるはずなんですよ。

安田

仕事の有無にかかわらず?

久野

それ以下しか仕事が与えられないんだったら、休業手当を払わなきゃいけない。

安田

それは、いくらぐらいなんですか?

久野

たとえば「仕事がないから家で待機してください」っていう場合は、その時間の6割は保証しなきゃいけないという法律があります。

安田

絶対そんなの払ってませんよ。

久野

仕事がある時だけ呼ぶってことは、その都度雇用契約が発生してる日雇いみたいな状態か、もしくは業務委託契約になります。

安田

その場合は副業を禁止できない?

久野

日雇いだとすれば、別に空いてる時間何やってるか自由じゃないですか。業務委託も全く同じだと思うんで、やっぱり何か違和感はありますよね。

安田

でも吉本ってすごい力持ってるわけでしょ。

久野

はい。

安田

力に押されて「その条件で結構です」って言っちゃいそう。それは契約として成立するんですか。

久野

当事者の間では有効だと思います。

安田

すごく弱い立場の外注みたいなものですか?

久野

そうでしょうね。

安田

外注って1カ所に頼るっていうのが一番危ないんですけど。

久野

交渉力がなくなりますからね。

安田

でも芸能界って「暗黙の了解」みたいなのがあって、お互いに引き抜かないようにしてますよね。

久野

そうみたいですね。

安田

あれって談合的な違法行為にならないんですか。

久野

一般社会では、今は許されないことですね。

安田

そうですよね。理不尽な雇用契約とか、理不尽に副業を禁じるとか。最低賃金保証するならまだしも。そうじゃなかったらもう許されない時代ですよ。

久野

吉本側に圧倒的な力があるから、これまでは収まって来たと思うんですけど。

安田

これからは厳しいですよ。ネット民も黙ってないし。

久野

今は宮迫さんの方が叩かれてますけどね。

安田

ネット民は弱い方に味方しますからね。宮迫さんは大金稼いでるから、やっかみもあるんじゃないですか。

久野

それもあるでしょうけど、やっぱり嘘をついたのが大きいですよ。

安田

「もらってない」って言っちゃいましたもんね。

久野

本来なら、宮迫さんではなく会社が責任取るべきところなんですよ。

安田

ですよね。普通はトップが出て来て頭下げますよね。

久野

問題をすり替えちゃいましたね。会社が謝んないといけないことを、全部トップ営業マンのせいにしたみたいな。

安田

結局は社長も出てくる羽目になって、謝ることになりましたけど。

久野

普通の会社だったら、責任をとってトップ交代とかでしょうね。

安田

テレビって、なんだかんだ言ってもスポンサー次第じゃないですか。

久野

ですね。

安田

スポンサーがNOって言ったら、吉本の芸人は使えないですよ。

久野

その前に上手に収めるんじゃないですか。騒ぎを。

安田

社長に対するバッシングも収まってきましたもんね。

久野

このまま沈静化していくと思います。

安田

そうなったら、この契約問題はどうなりますか?

久野

元のままじゃないですか。

安田

結構叩かれてますけど。それでも根本は変わりませんか?

久野

どこまでいっても業務委託っていう外形を保つと思いますね。

安田

契約書は交わさないで?

久野

おそらく口頭のままで行くんじゃないですか。

安田

それでも直接営業や副業は禁止すると。

久野

はい。その辺の感覚は完全に世の中とはズレてますけど。

安田

冷静に考えたら、かなりひどい会社だと思うんですけど。

久野

まあでも、それが分かって芸能人を目指してますから。

安田

才能がなくてもチャンスは与えられる。その代わり食うや食わずの生活。副業もできない。これは正しいことなのでしょうか?

久野

特殊な世界ですからね。起業する人たちと近いかもしれません。

安田

そこには労働法は及びませんか?

久野

これから先は分かりませんね。こういう世界がなくなって行く可能性もあります。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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