第216回 経営者の本音と建前

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第216回「経営者の本音と建前」


安田

「若い女性は雇用しません」で炎上した話。

久野

経営者が「投資に見合わない」と言ってしまったやつですよね。

安田

はい。若い女性は結婚してすぐ辞めるとか、子どもできて辞めるとか。おっしゃる通りなんですけど、それを公にしてどうすんだって感じ。

久野

なぜ言っちゃったんでしょうね(笑)

安田

私も不思議です。そう思ってる経営者はたくさんいるし、そのゾーンを避けて採用してる会社もあるし、でもわざわざ言ったりしない。

久野

どういう人を雇うのかは事業戦略なので。ぶっちゃけ話してしまえば昔からある話なんです。

安田

ですよね。言わないだけで。

久野

「女性は若いうちだけ働いてほしい」と思ってる経営者もいるし。「若い女性は要らない」という経営者もいるし。

安田

早く辞めることを計算に入れて女性採用してる会社は多いです。平均賃金も上がらないし。

久野

そういうことは前からあります。ただし暗黙のルールとして、それを絶対に言っちゃいけない。

安田

言っちゃいけないですよね(笑)

久野

その空気は働く側も感じ取っているはずで。「言わなきゃいけなかった」という意味が全く理解できないです。

安田

この発言をしたのは女性社長なんです。「女の私が言ってやるわ」みたいな感じだと思いますけど。

久野

「言わないと分からない」と思ってることがズレてます。みんな分かってたはず。

安田

私もそう思います。

久野

これを言ったことによって、その会社で働きたい人が減っていくだけ。

安田

ですよね。「そんな会社で働きたくない」という人が増えていくので。

久野

ちょっと考えたら分かりそうなものですけど。

安田

「欲しいのはこういうターゲットなんだ」とか、「この年齢層なんだ」とか、「こういう人はできれば避けたい」とか、経営者なら絶対あるんですけど。

久野

それはもう当然じゃないですか。

安田

たとえば事務職の人がみんな同世代の女性だと、子どもが一斉に風邪をひいて休んでしまうわけです。

久野

一斉に休まれるのが会社としてはいちばん困ります。

安田

だから採用する年齢層をバラけさせるとか。そんなの経営戦略として普通に考えることだと思うんです。

久野

そうですね。日本の雇用って、年齢で差別しちゃいけないとか、男女差別しちゃいけないとか、「平等に扱え」と言ってるように見えるんですけど。

安田

実態は違いますよね。

久野

日本の労働法はあまり細かいところを決めていなくて。たとえば募集のルールは決めていても、採るかどうかの裁量権は経営者にあるので。

安田

そうなんですよ。表向きには書けないけど採用する人はほぼ決まっていて。女性が来ても採らないとか。35歳以上は採らないとか。結局採らないだけ。

久野

そうなります。

安田

意味があんのかなって思います。応募者にしても、わざわざ時間を作って受けに行くわけで。時間の無駄じゃないですか。

久野

でもハローワークとしては言えないじゃないですか、それは。

安田

求職者には何のメリットもないですけどね。男性が必要な職場とか、女性が必要な仕事とか、決まっているわけで。

久野

そうですよね。

安田

スチュワーデス全員がおじさんの飛行機とか。乗りたくないでしょ。私だったら嫌ですよ。

久野

男性もいると便利なんですけどね。高いところに重い荷物を乗せる力仕事とか。

安田

それは分かります。保育園でも同じみたいです。女性の保育士さんが中心ですけど力仕事が多いみたいで。男性の保育士さんは非常に重宝されるそうです。

久野

だけど男性募集とは書けませんから。

安田

男性なら誰でもいいわけでもないし。せっかく男性を採ったのに女性より力がない人とかが来るらしいです。意味ないだろうみたいな。

久野

求人の出し方がとても重要ですよね。

安田

そうなんですよ。「こういう人を求めてます」ということを、いかに求職者に察してもらうか。ズバリとは書けないケースが多いので。

久野

今回の話も求人票を工夫すれば済むと思うんですよ。あたかも社会の問題かのように、わざわざメディアで言ったのが間違いで。

安田

確かに問題はありますけどね。採らないのに採らないとは書けなくて。こっそり落とすしかない。

久野

そこは働く人も気付かないといけないですよ。難しいのかな。

安田

難しいんじゃないですか。会社によって欲しいターゲットが違うので。

久野

察してほしいですけどね。

安田

「若い女性は採用しない」という会社もあれば「ぜひ採りたい」という会社もあるし。「60以上は採らない」という会社もあれば「70まで働いてほしい」という会社もあるし。

久野

ありますね。

安田

それが求人票にちゃんと書いてあれば、求職者にもメリットがあるんですけど。

久野

民間の求人会社はそこが緩いですよね。エアワークとか。

安田

エアワークは緩いです。というかハローワークが厳しすぎるだけ。

久野

ハローワークはできないんですよ。公のメディアだし。

安田

何が大事なのかを見落としてる気がしますけど。

久野

ハローワークがやると炎上します。今回の社長みたいに。

安田

分かっていても言ってはいけないと。

久野

それがリテラシーですから。企業側の事情がいろいろあるのは当たり前なわけで。

安田

求職者が察するしかないと。

久野

自分に合った会社や仕事を見つけるしかないです。ちゃんと考えて応募すれば、全ての人に働く場所はあるわけですから。

安田

ありますか?

久野

ありますよ。

安田

やる気のない人でも?

久野

やる気ない人はやる気を出してもらうしかない。これはもう大前提。それ以外の人はちゃんと探せば仕事はあります。

安田

やる気はあるけどスキルがない60歳はどうですか。なかなか仕事が見つからないそうですけど。

久野

60歳でスキルがないって言われても(笑)

安田

それは本人の問題ですか。

久野

普通に考えたらそうですよね。真面目に考えて仕事をしていれば60歳でスキルがないなんてあり得ない。

安田

スキルがなくても昇給させるから、そうなっちゃうんじゃないですか。

久野

スキルのない人を昇給したらダメですよ。

安田

今はどんどん給料を増やせっていう風潮じゃないですか。それでも昇給しちゃいけませんか。

久野

仕事ができる人はどんどん上げればいいんです。だけどできない人を昇給させてはいけない。これをやったらお互いが不幸になります。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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