第245回 インボイス制度の裏側

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第245回「インボイス制度の裏側」


安田

インボイス制度が始まりましたね。「零細事業者を殺すつもりか!」ってテレビですごいニュースになっていて。

久野

へー。そうなんですね。

安田

はい。だけど「収益の低い仕事を淘汰していく」というのは政府の大方針なわけで。ある意味インボイスは食えない人を炙り出す制度とも言えます。

久野

表立って言えないでしょうけど、そういう気持ちもあると思います。

安田

炙り出された人を収益率の高い仕事に吸収していくと。だったら「食っていけない人がいる」という理由でインボイス制度をやめるのはありえないですね。

久野

そう思います。そもそも消費税って預かってるお金ですからね。使っていいわけじゃないから。

安田

ですよね。それがないと生活できないって、意味がわからない。

久野

今まで「使わせてあげていた」というのが正しい言い方で。消費税が始まった時は3%だったので、回収コストを考えて零細事業者は免除していたという話。

安田

なるほど。そういう経緯なんですね。

久野

今は10%で金額的にも大きいですし、どこかで是正することは当然考えていたと思います。

安田

段階を経て導入しているだけなので、そもそも既定路線だってことですよね。

久野

そうなんですよ。いまさら騒ぐのがおかしくて。

安田

なぜ一部の人だけ消費税を払わなくていいのか、訳がわからないですよ。

久野

そもそも人のお金ですからね。預かってるだけで。

安田

人には消費税を請求しておいて自分は払わないって。どう考えてもおかしいですよ。なぜメディアはそういう人の肩を持つんでしょう。「預かり金だから払わなきゃダメだろう」ってなぜ誰も言わないのか。

久野

ネットを見るとそういう意見もあるんです。でもテレビでは一切そういう意見は出てこないですね。

安田

だからテレビはダメだって言われるんですよ。視聴率のために偏った報道ばかりして。

久野

1万1000円受け取った時に、自分のお金は1万円だって思わなきゃいけないですよ。

安田

人にも請求していないなら払わないのも理解できますけどね。

久野

そうなんです。預かっておいて自分にインするのはやっぱりおかしい。

安田

それで「零細事業者を殺すつもりか」とか言われても。理屈が合わないですよ。

久野

はい。その通りです。

安田

今までたまたま駐車違反の切符を切られていないだけ。「切符を切られたら食べていけない」と言ってるのと同じ。

久野

ほんとそうです。そもそも売上が1000万円もないこと自体がまずいんです。

安田

消費税も含めて300万とか400万なら、どこかに就職した方がいいと思うんですけど。

久野

いや、本当に。

安田

私もよく聞かれるんです。「インボイスを申請した方がいいですか」って。申請してもらわないと取引先が迷惑しますよね。

久野

申請してもらわないと免除が受けられないし経理も面倒なんです。

安田

受け取った人が払ってくれないと、発注者側の責任になるってことですよね。

久野

そうですね。あとはコンプライアンスの問題。多くの会社はちゃんとやりたいという意識が強いので。

安田

インボイス制度が導入されると不公平感はなくなりますよね。

久野

番号で全て管理できますから。いいことですよ。税務調査も楽になりますし。

安田

ただ発注側に委ねるのは辞めてほしいです。受け取った側からちゃんと取るようにしてほしい。発注側に徴収させるっておかしな話ですよ。

久野

大きな会社にまとめて徴収させるのが税の基本的な概念なので。社員の給与も同じじゃないですか。

安田

基本的な概念とか言われても(笑)

久野

本当は所得税も社会保険も一人ひとりが直接支払うものなんです。

安田

そうなったら払わない人が出てくるわけですよね。

久野

そうなんです。だから会社に徴収代行をさせるわけですよ。給料を払うときに天引きするのが一番確実なので。

安田

つまりサラリーマンというのが一番確実な徴税相手だと。だから国は会社員を増やしたがるんですね。

久野

大きい声では言えませんけど、それが真実だと思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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