第307回 働く高齢者の年金緩和問題

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第307回「働く高齢者の年金緩和問題」


安田

65歳を過ぎても働かないと、ちょっと食べていけない状況ですよね。

久野

そうですね。

安田

年金だけじゃ食べていけない。だから働くんですけど、稼ぎが多いと年金を減らされてしまうじゃないですか。

久野

ちょっと意味合いが違いますけど。年金と合わせて所得が50万円以上だと「年金が削られちゃうルール」ですね。

安田

そうすると労働意欲が落ちるので「これを引き上げよう」という話がある。

久野

そうですね。60〜70万まで引き上げてもっと稼げるようにしようと。

安田

ネットの反応を見てると冷めてますよ。「月50万円以上稼げる高齢者なんて一部のエリートなんだから、年金なんて払う必要ない」みたいな。

久野

おそらく枠は拡大していくと思います。給与相場も上がっていくでしょうし、歴史を見てるとずっと上がり続けてますから。

安田

いずれ60〜70万にはなっていくと。

久野

なっていくと思います。ただ、いつも言うんですけど、社会保険の思想がみんな間違っていて。相互扶助なんですよ社会保険っていうのは。

安田

稼いでいる人は受け取る必要がないと。

久野

はい。年金って生活できない人を支えるためのお金なので。そもそも間違ってる。

安田

理想というか理念はわかります。理念はわかりますけど受け取れるものであれば受け取りたいですよね。

久野

そう考える人が多いですよね。まず積み立てたものを返してほしいと。

安田

返してほしいとまでは言わないですけど。「これ以上稼いだら年金が減らされる」となったら、それは働かなくなりますよ。

久野

なりますか?

安田

だって働いても働かなくても金額が変わらないなら、そりゃ働かないでしょう。理想はわかるんですけど人間相手なので。感情もあるわけですから。

久野

そっか。

安田

そりゃそうですよ。

久野

確かに際どいラインにいる人は気になりますよね。

安田

このネットの書き込みはどう思いますか?月に50万円稼げる人ってエリートなんですか? 

久野

そう思います。65歳以降で働く人って二極化してまして。どこかの役員みたいな感じで給与が高いか、それとも最低賃金プラス10〜20%ぐらいか。

安田

安い仕事をしている人たちは、年金と合わせても50万円は超えないと。

久野

超えないでしょうね。

安田

つまり60〜70万への上限引き上げは「お金持ち優遇制度」ってことになるんでしょうか。

久野

そこまでは言いませんけど。正直、僕はこれで「働く人の意欲を削いでいる」とは思えないです。

安田

じゃあ何のために上限を上げていくんですか?

久野

「働いたら年金止まるんでしょ」って思っちゃってる人が多いから。政府としてはもっと働いてほしいので「年金は止まりませんよ」とアピールしたい。

安田

だけど実際には、それで恩恵を受ける人はかなり少ないと。

久野

かなり少ない。財政に与える影響もめちゃくちゃ小さい。だから政府としては小さなお金を取りに行くより「もっとみんな働こうよ」ってやった方がお得だと考えているわけです。

安田

つまり「エリート高齢者の優遇はやめろ」というネットの意見は当たっていると。

久野

だって若い人は年金をもらってないじゃないですか。

安田

そりゃそうですよ。若いんですから。働かなくちゃ。

久野

じゃあ「なんで高齢者は年金がもらえるか」ってすごく疑問に思いませんか?

安田

自分が払ってきたから「歳を取った時には受け取れる」って思ってますよ。

久野

また話が戻るんですけど「払ってきたからもらえる」というのは社会保険の目的ではないんです。「働けないからもらえる」というのが正しい。そうなると若者にももらえる権利がないとおかしい。

安田

つまり「お年寄りでも働ける人は年金をもらわず働き続けよう」「若者でも働けない人は年金を受け取ってもいいだろう」と。

久野

そうなんですよ。

安田

なるほど。そんなこと考えもしなかったです。

久野

「高齢者は労おう」って気持ちが心に残ってると思うんですけど、それを取っ払わない限り難しいと思うんですよ。

安田

高齢者にゆっくり休んでもらおうというのが間違いだと。

久野

変に年金なんて渡すからいけないんです。

安田

とはいえ65歳を過ぎたらいつまで働けるか疑問です。

久野

だから働けなくなったら受け取ればいいんです。

安田

でも受け取らなかった分の繰り延べ支給とかは無いんですよね?

久野

ありません。受け取らなかったものはもう二度ともらえない。

安田

そう言われると辛いですよ。歳を取るといつどうなるか分かりませんし。

久野

稼げる人は稼いで日本のために払い続けるしかないんです。労働人口が減っていく中での新しい税金みたいなものですから。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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