第353回 モームリがもう無理な理由

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第353回「モームリがもう無理な理由」


安田

退職代行モームリに家宅捜索が入ったそうです。弁護士に仕事を斡旋していたみたいで。

久野

弁護士への仕事の斡旋は違法なんですよ。

安田

そもそも退職代行自体が弁護士の仕事じゃないかと言われてますが。

久野

退職代行の条件を会社と交渉するのは弁護士の仕事になります。

安田

「〇〇さんは辞めます」という一方的な通知だけなら、弁護士じゃなくても出来る?

久野

ギリギリOKじゃないですか。ただ何の交渉もしないという案件は少ないと思いますけど。

安田

実際に交渉場面が多いから弁護士に紹介したんでしょうね。交渉は全くダメなんですか?

久野

はい。社労士でもできません。

安田

そうなんですね。ちなみに弁護士に紹介料を払わない場合はOKですか?

久野

それはOKです。金銭が絡むと恣意的な部分が出てくるので。無理やり特定の弁護士を斡旋したり。弁護士も発注者に忖度したり。そこに力関係が生まれるのはまずいってことです。

安田

なるほど。モームリという会社が弁護士に紹介していたことは事実みたいですね。報酬を受け取っていたかどうかはこれから調べるんでしょうけど。

久野

普通に考えて、退職代行って事業主さんと多少は揉めますから。画一的にメッセージだけ伝えて終わるなんてことはないと思う。

安田

多少の交渉だったら自分たちでやっちゃいそうですけど。

久野

これだけスタッフが多いと知らずにやってしまうことはあるでしょうね。ちなみに社労士事務所は従業員との交渉って絶対しないんです。やっちゃダメだって分かっているので。

安田

それをモームリさんはやってしまったかもしれない。

久野

資格を持っていないメンバーが現場でそこの線引きをするのは難しいと思います。仕組み自体は悪いとは思わないんですけど、そこを調べられたらしんどいでしょうね。

安田

つまり退職代行をビジネスとして成立させるには弁護士事務所がやるしかないと。

久野

本来は弁護士事務所の仕事だと思います。

安田

それだったら何の問題もないですもんね。じゃあモームリさんは家宅捜査を機に弁護士事務所に事業売却するかもしれませんね。

久野

ちょっと大きくなり過ぎたんでしょうね。社会的に必要な機能だとは思いますけど。

安田

必要ですか。退職代行という仕事は。

久野

はい。自分で「辞める」って言えない人がいるので。そこは経営者も理解しないといけない。言ってもらえなかったってことを反省しないと。前に進んでいかない。

安田

労務局に行ったら無料でやってくれませんでしたっけ? 

久野

それはそれで大変なんじゃないですか。いろんな書類を揃えたり。

安田

2〜3万払ってスパッと辞めたいってことですか。

久野

そう思います。

安田

そもそも、なぜ弁護士がやらないんでしょう?

久野

やってる事務所もありますけど、そこまで大きくなっていないですね。モームリの社長の本を読みましたけど事業センスがすごくあるんですよ。

安田

売るのが上手ってことですね。ブランディングとか集客とか。

久野

そう思います。弁護士事務所がやっても、ここまでスケール出来なかったということで。

安田

でも弁護士さんが絡むとなると2〜3万じゃ難しい気もします。

久野

それは絶対無理でしょうね。

安田

ですよね。通達だけなら2〜3万円で出来るけど、交渉が始まったら無理ですよね。

久野

絶対に交渉事って出てくるので。「分かりました」っていう会社の方が少ないですよ。明日は来てくれなきゃ困るとか。行けませんって言った瞬間に交渉ですから。

安田

「本人に伝えておきます」では埒(らち)が空かないと。

久野

「伝えておきます」で一旦切って。「行かないと言ってました」ってまた連絡して。それではまとまらないからずっとやり取りする感じ。

安田

なるほど。構造的に無理があるんですね。

久野

はい。無理があります。ここまで大きくなったら弁護士事務所に移管するしかないでしょうね。

安田

分かりました。今後の展開を見守りましょう。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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