第362回 属人化をどこまで許容するべきか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第362回「属人化をどこまで許容するべきか」


安田

正月明けに退職届を出す人が大企業で増えているそうです。

久野

あけおめ退職ですよね。ニュースで見ました。

安田

年末年始に色々考えちゃうんでしょうね。いろんな人にも会うし。このままでいいんだろうかみたいな。

久野

あるでしょうね。

安田

年末年始に会社を辞めたいと思った人が3割もいるそうです。

久野

3割はすごいですね。

安田

あけおめ退職で終わりではないということです。これからやめようかなって予備軍がもっとたくさんいる。

久野

恐ろしい。

安田

特に長期休暇の時に出やすいんですって。人間って時間があるとあれこれ考えますから。

久野

とはいえ長期休暇を無くしたら辞めちゃうし。長期休暇を作ったら辞める人が出てくるっていう。どうしたらいいのか。

安田

年末年始が最多で、その次がゴールデンウィーク。夏休みを合わすと辞めどきが3回もある。

久野

それで辞めて、次どうするんですかね。ちゃんとプランがあればいいんですけど。

安田

私もそう思うんですけど。辞めたくなっちゃうんでしょうね。

久野

そこで思いとどまった人が年明けから転職活動を始めているのかもしれない。

安田

辞めることは心の中で決めていながら「今年もよろしくお願いします」なんて挨拶して。

久野

いるでしょうね。12月はボーナスもらえるし。みんなそこまでは粘るけどボーナスもらって気持ちが切れちゃう。

安田

給料も大事だけどやりがいも提供しないと。どんどん辞めていきますよ。

久野

やりがいって何なんですかね。

安田

1つは自分自身が成長している実感じゃないですか。ここで働いていれば次にどこに行っても通用するぞっていう。

久野

なるほど。転職を前提としたスキルアップですか。

安田

もう一つは自分のやってる仕事が必要とされている実感でしょうか。上司からすごく褒められるとか、お客さんに感謝されるとか。

久野

僕らはありがたいことに割とお客さんからありがとうと言ってもらいやすい職種なので。

安田

社会に貢献している実感って大きい会社ほど持ちにくいですよ。

久野

大きいほど部分的な仕事になっていきますからね。車を作っていても全部自分では作れないわけですから。

安田

それで転職した人の記事を読んだことがあります。部品の組み立てだけだとやりがいを感じないって。全工程に携われるヨーロッパのメーカーに転職したそうです。

久野

それも効率を考えると難しいですよね。

安田

はい。個人スキルへの依存度も高くなりますし。会社としては出来るだけ個人に依存しない状態を作りたいじゃないですか。

久野

そうですよね。

安田

誰かが抜けちゃったら回らない状況はまずい。でも、その状況を作れば作るほど、中にいる人はやりがいを感じにくくなって辞めやすくなる。

久野

「属人化させつつ属人化させない」って全国トップの社労事務所の先生が言ってました。

安田

へー。どういう意味ですか?

久野

要は事務所を大きくしていくのはどんどん仕組み化し、属人化を排除していく作業だと。だけど士業事務所に就職する人は根本的にちょっとめんどくさい仕事とか、自分にしか出来ない仕事がやりたいと思って入ってきてる。

安田

完全に仕組み化してはいけないと。

久野

仕組み化すればするほど人が辞めてくっていう。

安田

そうなんですよね。

久野

「自分しかいない」と思わせながら、事務所はオペレーションありきで動いていく。それが作れないと士業事務所はでかくならないよって言われたんです。

安田

なるほど。深いですね。でも、それは士業事務所に限った話じゃないでしょう。

久野

そうですね。特に大企業は同じ課題を抱えていると思います。

安田

良い会社に勤めて、福利厚生も充実して、給料も悪くないけど辞めていっちゃう。辞められても困らないようにすればするほど辞めていっちゃう。

久野

とは言え、辞められたら困るようにもできない。辞められた時の打撃が大きすぎるので。

安田

中小企業の場合はどうしても属人的な部分ってあるじゃないですか。

久野

ありますね。

安田

完全に仕組み化するのが難しい。いっそのこと「うちは4割が属人的な仕事です」って割り切って打ち出した方が人も集まりそう。

久野

いいと思いますよ。大手には絶対出来ないやり方なので。

安田

ただ属人的な仕事だと簡単には休めなくなりますけど。代わりが効かないので。

久野

難しいですよね。そもそも会社って時間と報酬のトレードオフなので。効率や成果を要求されるのは当たり前なんですけどね。

安田

そうですよね。その代わりに病気になっても給料がちゃんと出るっていう。でもその歯車的な仕事に耐えられない人が増えてきたってことですよ。

久野

会社という仕組み自体が成り立たなくなりますね。

安田

会社の終わりが始まっているのかもしれません。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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