第364回 日本人は働かなくなった?

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第364回「日本人は働かなくなった?」


安田

ついにインドにもGDPで抜かれてしまいましたね。日本はまだ先進国と言えるんでしょうか?

久野

先進国から途上国に落ちた事例はないので先進国ですけど、先進国のビリケツを走ってる感じじゃないですか。

安田

減っているとはいえ人口が多いのでまだこの位置にいますが。1人当たりのGDPではすでに下位といってもいい。

久野

そうですね。残念ながら。

安田

人口が減っていく日本は、むしろ1人当たりの生産性の方が大事な気がしますけど。

久野

大事ですね。そこが個人の豊かさと直結してきますので。ただ国全体のGDPも大事な指標ではあるんですよ。国際的な発言権が変わってしまうので。

安田

なるほど。じゃあどちらも大事だと。

久野

国全体のGDPは国民の利益にも直結します。

安田

企業と同じですね。売上規模が大きい方が世界で戦うのに有利っていう。

久野

はい。ただ社員の待遇をよくするには「1人当たりGDP」が必須ではありますけど。

安田

どちらも必要ってことですね。日本人が豊かになっていくためには。

久野

そう思います。まずは国家として伸びる産業にどんどん投資していくこと。そして各企業が一人当たりの生産性を意識して高めていくこと。実は去年デンマークに行ったんですけど。

安田

デンマーク?

久野

デンマークは「稼げる国家に変えていく」というコンセプトで、収益性の高い産業に国家として投資しています。

安田

日本でもやってそうですけど。

久野

日本の投資には特徴がなくて。なんでもかんでもやるじゃないですか。結果としてみんな沈んでいってる。何のために時短をやったのか分からなくなってるし。

安田

実際に日本人の労働時間って短いんですか?先進国の中では。

久野

かなり短くなってます。

安田

ある意味、労働改革が成功したってことですか。

久野

生産性も上がらないのに「やり過ぎた」ってことじゃないですか。

安田

本当は時間あたりの生産性を高めてから時短をやらないといけなかった?

久野

私はそう思います。生産性が変わっていないのに時短だけやってしまった。だから現状維持がやっとの数十年だった。

安田

世界はその間にどんどん伸びていると。

久野

はい。2024年の日本人の平均労働時間は1617時間まで減ったんですけど。増えた自由な時間をただ休んできたわけです。

安田

海外は違うんですか?

久野

アメリカだったらクビにならないように勉強しますよ。

安田

じゃあ、それをやってこなかった個人の責任が大きいと。

久野

国家も勝負をかけなかったし、個人も勝負をかけないで時間だけが短くなった。それが問題なんです。

安田

日本では就職してしまえばクビになりませんし。出世しなくてもある程度の昇給はしていきますし。そう考えたら成長意欲も落ちてくるんでしょうね。

久野

そうですね。今日勉強しなくても明日クビになることもない。そうなるとやらないですよ。テストがあるから勉強するわけで。

安田

つまり日本の構造的な問題だと。確かに日本の会社員って経営者や国が給料を上げていくと思ってる人が多い。

久野

そうですね。会社が悪いから給与が上がらないってよく言われますから。

安田

会社が悪いとか、政治家が悪いとか。本人の能力が同じなのに給料だけ上がっていくはずがないんですけどね。

久野

確かに世の中はインフレですけど、社員の能力がインフレしているわけじゃないので。

安田

たとえば国家としての産業投資が大成功すれば、個人は努力しなくても給料は上がっていくんでしょうか?

久野

ありえますね。

安田

みんな、それを期待してるってことじゃないですか。

久野

多分そういうことでしょうね。

安田

本当に可能なんでしょうか?

久野

やり方次第ですね。まずは保護政策をやめて業種の転換をしないといけない。例えば農業を捨ててITに行くとか。儲かる産業に国家がベットしていかないと。

安田

それによって痛みを伴う人も出てきますよね?

久野

もちろん出てきます。儲かる産業を国家が育てていくということは、人が産業を跨いで移動するということですから。

安田

そもそも儲かる事業を増やしていくのは国家としての役割なんですか?それって経営者の仕事って気がするんですけど。

久野

経営者の多くは変わりたくないんですよ。だから国をあげて「もうこの産業はやめます」と言わない限り変わらない。

安田

そんなこと絶対に政治家は言わないでしょうね。

久野

言えないでしょうね。選挙で痛い目に遭うから。むしろ保護しましょうと言った方が票は集まる。

安田

生産性が低い会社や業界ほど守りに入りますからね。「自己責任ですよ」なんて言ったら炎上するし。

久野

日本はそういう意味では社会主義っぽい国なんです。国家としての戦略がなくて「竹槍でも根性で勝てる」みたいな感覚が未だに抜けてない。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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