第6回 官僚は誰を見て仕事をするのか?

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第6回 官僚は誰を見て仕事をするのか?

安田
官僚さんもシステム的には上司の方を向いて仕事しないといけないとすると、一番上は政治家ってことになるんですか?

酒井
そうなりますね。
安田
その割には政治家の言うことをあんまり聞いてないように見えるときがあるんですけど、ぶっちゃけ官僚さんってどこ見て仕事してるんですか?

酒井
私のいた時代よりも、今は政治家や首相官邸主導の話も多いので、総理やその側近の方を見て仕事するケースが増えているのは確かだと思います。
安田
政治家主導になったのは、なんでなんですか?

酒井
役所はシンクタンクのような研究機関ではないので、政策を通さなきゃいけないわけです。 そうすると、通せる力を持つ人には歩み寄らなきゃいけなくなる。
安田
なるほど。でも官邸の言いなりになっていると、日本のためにはあんまり良くないような気もしますが。

酒井
それはもちろんそうですね。ただ、大きく分けると政策には2種類あって、政治家が意思決定をしたいものと、票にならなそうだったりしてあんまり関心を持たれないものとがあるんです。
安田
政治家ウケするものとそうじゃないものがあると。

酒井
ええ。あんまり政治家の方も興味ないようなテーマだったら、役所の中で考えた話がそのまま国会まで通ることもあるので、官僚が正しいと思うことがある程度は実現できるんじゃないかなって気はします。
安田
大前提として、役所の方もやっぱり出世を目指されているんですよね。それとも、みんなが事務次官を目指してるわけじゃないんですか?

酒井

目指してない、とは言わないですけど…。将来の出世だとか、事務次官になるんだと思っている人は、たぶん安田さんが思っているよりは全然いないと思います。

安田
そうなんですか。ちなみに民主党が政権を取った時に、全然民主党さんに協力的じゃなかったのはなぜなんですか?

酒井
協力的じゃないことはないと思います(笑)。
安田
あ、そうなんですか。そういうふうに国民に見えただけで、民主党にもちゃんと協力してたんですか?

酒井
官僚は国からお金をもらっているので、「こういうことをやりたい」って相談をされれば答えは出せるんです。ただ、官僚が提案を出しても「自民党の手垢がついてるからダメ」って言われ続けると何もできなくなる。
安田
なるほど。民主党さんの方が官僚を使いたがらなかったんですね。でも政治家だけで全国津々浦々の対策なんて考えようがないですよね。

酒井
そうですね。民主党の先生方って役人出身の方も多いので、自分たちがある程度できると思われた方もいらっしゃると思います。
安田

それが実際にはできなかったと。結局、「国の予算を集めて国のために使う」ということをやっているので、財源の中でやれることって、どこが政権取ろうが限られていると思うんですけどね。


酒井
おっしゃる通りですね。
安田
当時って「自民党が埋蔵金みたいなのを隠しているから、無駄遣いをなくせば財源なんていくらでも出てくる」って民主党が夢のようなことを言ってたじゃないですか?

酒井
ああ、確かに言ってる人もいましたね。
安田
でも結局出てこなかったですよね。あの時に一言、「埋蔵金は出てこなかったけど、きちんと探すことには意味があった」って言えばよかったのに、なんで言わなかったんだろうかと。

酒井
まあ、むしろそう言いたくなかったというか。こう言うと怒られますけど、役所がまだ隠してた要素もあったと思います。
安田
えっ、そうなんですか。出さなかっただけで、本当は埋蔵金があったっていうことなんですか?

酒井
いや、埋蔵金というよりは、役所がある程度裁量をもって使えるお金があるにはあるので。「そこのアイデアを出せ」と言ったら、役所ももう少し協力的だったと思うんですけどね。
安田
なるほど。ちなみに日本の官僚も、日本の官邸を見てると言いながら、実はアメリカの方を見てるんじゃないかとまことしやかに言われているんですが、これは本当なんでしょうか?

酒井
本当かウソかって言うと、ウソでしょうね。「アメリカの言いなりになっていれば自分が出世するからそうしよう」という役人は、私が出会った中で一人もいないです。
安田
へえ。意外とみんな自分の出世を考えてないんですね。

酒井
ただ、国にとって正しい施策だと役所が思っていることを、アメリカに言ってもらおうとする人はいたと思います。
安田
自分のやりたい施策をやるためにアメリカを使っている感じなんですかね。政治家はどうなんですか?

酒井
政治家もアメリカに強いというところを見せて、日本国内の存在感を高めようという人はいると思いますけど。
安田
そこで「アメリカのために」なんて考えるのは、それこそ昔のCIAのエージェントだったんじゃないかと噂されてる人ぐらいなんですかね(笑)。

酒井
そうですね(笑)。だから実際には、ほとんどいないと思います。
安田
田中角栄さんもアメリカに黙って中国と仲良くしたから足元をすくわれた、なんて言われてますけど、あれも都市伝説なんでしょうか?

酒井
昔の話はわかんないですけど(笑)。要は常に利害関係なので、そんなにシンプルではないというか。彼を嫌う人が「どうやって追い落とそうか」を考えるときに使ったっていうことでしょうね。
安田
なるほど。日本の地理的な位置からしても、アメリカ100%よりは中国とアメリカの間でうまくバランスをとった方が国益にかなう気がするんですけど。

酒井
そうですね、そう思います。
安田
じゃあ日本の政治家はなんであんなにアメリカ寄りなんですか?

酒井

主義主張の議論もあるので非常にしゃべりづらいですけれども(笑)。私の周りでは、「なんで日本の政治家はあんなに中国や韓国寄りなんだ」と思ってる人の方が多いかもしれないです。

安田

そうなんですか、意外ですね。


酒井
結局、アメリカ一辺倒でも中国一辺倒でもなく、どの相手ともちゃんと議論できる環境を作ることが大事なんですよね。でも人ベースでは、中国に強い人とかアメリカに強い人がいる。
安田

確かに、それはそうですね。


酒井
例えばこの10年ぐらいに「中国と一緒にうまくやろう」って言った人は、大体の施策は失敗に終わっているわけですよ。そういう人はやっぱり出世していない。
安田
なるほど。アメリカと日本の関係がちょうどいいから、アメリカと一緒にやってる人が仕事できる人に見えると。
酒井

そうですね。ただその傾向が長すぎるので、アメリカの意見にのみ従って中国と対立することが増えているのは、今後のバランスとしてはすごく危惧しています。

 

 


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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