第18回 ケーキ屋さんの独立支援、まずは「儲け度外視」で

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第18回 ケーキ屋さんの独立支援、まずは「儲け度外視」で

安田

今回も、前回に引き続き、スギタさんの会社で独立を支援したお店についてお聞きしていきたいと思います。こちらのお店では、店長さんにどの程度裁量をもたせているんです? メニューなんかも自分で決められるんですか?


スギタ

ええ。10年以上のキャリアがある方なので、ある程度一任していますね。ちなみに内装のデザインや店名なんかも、全部彼女自身に決めてもらいました。

安田

あ、そうなんですね! それなら「自分のお店」って思えますね。


スギタ

ええ。でも値付けだけは口を出させてもらっています。今回の独立支援では「売上に応じて報酬を支払う」という形にしているので、高すぎて全く売れないとか、利益が少なすぎる値付けをされてしまうと、僕らも困ってしまうので(笑)。

安田

なるほど(笑)。ちなみに報酬は、売上に対してどれくらいの設定にしているんですか?


スギタ

売上の30%ですね。

安田

ふむふむ。…ちなみにケーキ1つの利益率ってどんなもんなんですか? ちょっと言いづらいかもしれないですけど(笑)。


スギタ

笑。材料費を除くと、だいたい60〜70%くらいです。

安田

そうすると、売上の30%が報酬だから、利益をほぼ折半することになるわけですか?


スギタ

そうなります。この業界って粗利の半分は人件費なんですよ。だから僕らはその部分を彼女に支払う。で、それ以外の経費…例えば電気・水道・ユニフォームのレンタル代、あとは害虫駆除費なんかは、僕らが負担します。

安田

ははぁ…施設に関わる費用は全てスギタさんが持つわけか。なんだか至れり尽くせり過ぎる気がしますね(笑)。


スギタ

かもしれないですね(笑)。だた、前回もお話したように、独立の一番のリスクは初期投資費がめちゃくちゃかかること。だからそのリスクをなるべく少なくしてスタートできるようにと考えた時に、この方法がベストなのかな、と思ったんですよ。

安田

ふむ。確かに開業間もない頃って出費も多いから、売上があっても、利益が少なかったりキャッシュがなかったりして給料が取れないことも多いですもんね。そこをスギタさんがフォローしてあげるわけですね。


スギタ

仰るとおりです。まずは彼女自身が「自分のお店」としてしっかり運営できるようになるまで併走してあげる。で、最終的には家賃と返済原資だけを支払ってもらう形にすれば、よりリアルな独立に近くなるかな、と。

安田

なるほどなぁ。ちなみに初期投資費2000万円は、どれくらいの期間で回収できる予定なんでしょうか?


スギタ

売上計画のパターンがいくつかありますが、最長で20年くらい、最短で8〜10年くらいかなと。ベストなのは、5年後くらいに「このお店でやっていきたい」と買い取ってもらえることですかね。それが僕にとっても彼女にとってもお客様にとっても一番良いと思っています。

安田

ふーむ、それだけ愛されるお店になった、ということですもんね。でも数年後に買い取ってもらったら、経営者としての「投資利益」は見込めなくなりますよね。それでもスギタさんがこのスタイルで独立支援をする理由って何なんでしょう?


スギタ

それはもうシンプルに、「自分のお店を持ちたい」と業界に入ってきてくれた人たちに、「こういう形態だったら自分でもお店を出せるかも」という突破口を作りたかった、ということですね。

安田

なるほどなぁ。そもそも「これをやったら儲かるぞ」という発想ではなかったと。


スギタ

違います(笑)。金銭的に独立なんて無理だ、と思ってしまっている人に対して「こういう独立の仕方もあるんだ」という道筋を示したかったんですよね。

安田

じゃあ「パン屋さんをやりたい」っていう社員さんがいたら、今回と同じように支援する可能性もあるわけですか?


スギタ

もちろん。このスタイルでうまくいったら、今後も継続的に「マイクロ起業」を応援していくつもりです。今回はゼロからお店づくりをしたこともあって初期費用がかなりかかりましたが、居抜き物件や後継者がいないお店を買い取ってリブランディングすれば、コストはぐっと抑えられると思うので。

安田

なるほどなぁ。自分のお店を構えたいという夢を持った人を支援する…いやぁ、聞けば聞くほど、素晴らしい事業ですね!


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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