第71回 「日本の食文化」は世界で戦う武器になる

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第71回 「日本の食文化」は世界で戦う武器になる

安田

日本って中華やフレンチを独自に進化させたりするじゃないですか。それはケーキでもそうなんですか?


スギタ

それでいうと、フランスで開催される「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」っていう世界大会があるんですね。いわばケーキのワールドカップみたいなものなんですが、日本はその上位常連国なんです。

安田

ほう、そうなんですか!


スギタ

過去には金銀銅を独占したこともありますし、ケーキ部門だけでなくパン部門でも日本の技術は世界トップレベルだと思います。

安田

は〜、やっぱりすごいんですねぇ。確かに美味しいものを作ることに人生かけている人、日本にはものすごくたくさんいますもんね。もともと職人気質で勤勉な国民性だからなんでしょうか。


スギタ

それはすごくあると思いますよ。あとは芸術点というか、センスや繊細な技巧などでも日本人のシェフは世界的に評価されています。

安田

は〜、なるほど。同じ日本人として嬉しくなっちゃいますね。ちなみに日本発祥のケーキって何かあるんですか?


スギタ

抹茶やゆずを使ったケーキは代表的ですね。もともとヨーロッパにはない食材なので、日本発のレシピがフランスに逆輸入されて使われるようになってきています。そういえばショートケーキも、もともとフランスにはないものなんですよ。

安田

えっ、そうなんですね。あれも日本発祥のアイデアだと。


スギタ

そうそう。最初は不二家さんが始めたんじゃないかな。というのも、ケーキにおいても国ごとに割と好みが分かれるんですね。柔らかいスポンジとか口どけの良さは、あまりフランス人好みじゃない。アメリカはカラフルさや強い甘さがあってこそケーキという感じで、日本とはまた違うし。

安田

ああ、アメリカのケーキって、大きいし甘いし、作りも雑なんですよね(笑)。アメリカに住んでいた頃、隣町まで1時間かけて評判のケーキを食べに行ってましたけど、どこも微妙でしたね。


スギタ

わかります(笑)。逆に言えば、日本人ほど「繊細さ」に強い国はない。スポンジの柔らかさとか、甘さのバランスとか、ちょっとした部分に徹底的にこだわる。そういう日本人の繊細な味覚があって、ショートケーキのような国民的なケーキが生まれてきたんでしょう。

安田

なるほどなぁ。でも前菜が細かく出てくるフランス料理も、懐石料理の影響だと聞きました。もともとの好みは違っても、日本の文化がだんだん世界に広がっている感じがします。


スギタ

確かにそうかもしれません。最近の中華料理のコースでも少しずつ出すスタイルが増えてきてますし。日本人のセンスがグローバルに認められ始めているんでしょうね。

安田

そう思いますよ。実際日本って本当に何食べても美味しいですから。海外の料理も、日本流にアレンジすると一段と美味しくなるんですよね。ラーメンだってもはや完全に日本食ですし。


スギタ

カレーもそうですよね。日本のカレーを食べに、インド人がわざわざ来るって話もあるくらいで(笑)。

安田

そうそう(笑)。でもそう考えると、「日本の食文化」って、これからの日本の成長戦略に欠かせないキーワードになってくる気がするんですよ。職人技と美味しさで、世界と戦える数少ない分野でもあるわけで。

スギタ

確かに確かに。実際、世界のどこに出しても恥ずかしくないレベルの料理やスイーツが、東京にはゴロゴロありますからね。

安田

そうですよ。あの激戦区で生き残ってる店だったら相当なレベルだと思います。美味しくて安くて早くて、さらに接客もよくないとお客さんが離れてしまう。そういう意味では世界一厳しい市場かもしれませんね。


スギタ

本当にそうですね。少しでも気を抜いたら入れ替えられる。東京で黒字なら、海外で出店した方がよほど儲かると言われてるのも納得です。

安田

スギタさんも海外で店出さないんですか? 絶対成功すると思うんですけど。

スギタ

行きたくなりますね。現地で見ると「この味でこの価格?」って驚くことも多いので。サンドイッチひとつ取っても、「もっと美味しくできるのに」って思ってしまったり。

安田

わかります。アメリカでも「これを毎日食べるのか…」って途方に暮れたことがあります(笑)。しかも高いし。

スギタ

そうそう、ほんと高いんですよ。だからこそ、日本の技術力やセンスやサービス精神で勝てると思うんです。ビジネスチャンスというより、純粋に「この値段でいいなら、絶対に自分たちのほうがいいものを出せる」という自信があるというか。

安田

いいですねぇ。でも実際今後は人口減もあって、日本のマーケットが縮小していくわけじゃないですか。結果海外に出る飲食店もますます増えるんじゃないですか?

スギタ

増えるでしょうねぇ。実際に海外展開を進めているラーメン屋さんなんかは業績も好調ですしね。海外でこそ日本が輝ける時代なのかもしれません。

安田

国内で何店舗も展開するより、海外で一店舗構えた方が夢がある気がします。スギタさん、そろそろマラソンついでに出店しましょうよ(笑)。

スギタ

いいですね(笑)。海外は本当に面白そうで、妄想が膨らんでしまいます。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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