第89回 「雇用」という名の共依存関係

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第89回 「雇用」という名の共依存関係

安田

人を雇うと、仲間が増えたりできることが増えたりとうれしいことも多い反面、しんどいことも多いじゃないですか。


スギタ

そうですね。多いですよね。

安田

結婚や子育ても似ていると思うんですよ。お金も労力もかかるけど、それよりも喜びの方が大きいからみんな結婚したり子どもを作ったりする。ただね、人を雇うことに関して言うと、本当に喜びの方が大きいのか? と考えてしまうんですよ。


スギタ

仰る意味はよくわかります(笑)。もちろんウチにいてくれることは本当にありがたいし、一緒に仕事をするのは楽しいんですけど。それが当たり前になっちゃうと、喜びよりも大変さに意識が向いてしまいますね。

安田

喜びは今もあるんだけど、慣れちゃうわけですね。ますます結婚に近い話だ(笑)。


スギタ

確かに(笑)。「ずっと一緒にいると鬱陶しくなっちゃう」みたいな話も聞きますもんね。

安田

まさにまさに。かく言う私も過去に離婚を経験していますが、その時は「もう結婚はいいかなぁ」って思ったんですよ。でも別れて何年も経つと、「奥さんや子どもがいてくれるってありがたいことだったんだな」としみじみ思いまして。


スギタ

失って初めて気づく大切さみたいなものですよね。そして安田さんはその後再婚されたわけじゃないですか。その一方で、雇用はもうしないと決めている。そこにはどんな違いがあるんですか?

安田

確かに言われてみればそうですね。まぁ、そこまで20年間人を雇い続けてきていたので、しばらくは一人でやりたいっていう気持ちがあったんですよね。「一人って楽だな」なんてのんびりやってたら、気づけば50代なかばになっていて、そこからあらたに人を雇おうっていう気にはなりませんでしたね。


スギタ

なるほどなぁ。年齢的なものも大きいと。

安田

そう思いますね。私がいまスギタさんくらいの年齢だったなら、また人を雇って組織を作っていたかもしれない。ちなみにスギタさんは今どういう心境なんですか? モンテドールさんでも社員さんを雇って経営されているわけですけど。


スギタ

さっきも言った通り大変なことはたくさんありますけど、それでもやっぱり、人を雇うことの楽しさや快楽にハマっている状態だと思いますね。

安田

ああ、雇用の快楽ってありますよね。私が一人でやり始めた頃、強烈な虚無感に襲われたんですけど、今考えるとあれは「雇用という快楽」の中毒症状だったんだなと(笑)。


スギタ

なるほど(笑)。でも確かに、社員が誰もいなくなるなんて、想像するだけで怖いです。僕、休みの日に時々一人で作業するのが好きなんですけど、それだって普段は社員がいてくれるからこその楽しみじゃないですか。

安田

そうそう。周りに人がいることが当たり前だからこそ、一人が楽しいんですよ。いざ本当にいなくなっちゃったら、耐えられないんじゃないですか?(笑)


スギタ

そう思います(笑)。単純に寂しいですし、いろんなことが楽しくなくなっちゃいそうです。そもそも一人じゃ仕事が回りませんし。

安田

そうでしょうね。子どもが早く寝てくれるとゆっくり自分の時間が取れて嬉しいですけど、そのうち妙に静かで落ち着かなくなったりして(笑)。

スギタ

すごくわかります(笑)。

安田

でもそういう「いなくなったら寂しい」「いないと困る」という感覚って、裏を返せば相手に寄りかかっているということでもありますよね。言葉を選ばずに言えば「依存」に近い気がするんです。社長自身が気づかないうちに、社員に依存しちゃってる部分があるんじゃないかと。


スギタ

ああ、なるほど。確かにそういう見方もできますよね。

安田

それは精神的依存だけじゃなくて、仕事自体についてもそうなんですよ。たくさん雇用していくと、望む望まないに関わらず現場は社員たちが回すようになる。そうするとだんだん、社長は社長業以外ができなくなっていくんですよ。

スギタ

ははぁ、なるほどなるほど。僕はマネジメントしつつまだまだ現場もやっているので、あまり考えたことなかったですけど。確かにそういう社長さんも多そうです。

安田

そうなんですよ。私も一人になって現場に出てみて、「自分はこんなに仕事ができなかったんだ」と驚愕しましたからね。

スギタ

そういえばメルマガにも書かれてましたね。社長がいざ一人で仕事をしようとすると、すごく大変だって。

安田

いやぁ、自分のダメさ加減にびっくりしましたね(笑)。ただこれは社員側にも言えることで。毎月給料が振り込まれることに依存してしまうわけです。

スギタ

なるほど。つまり雇う側も雇われる側も、お互いに依存してしまうと。

安田

そうそう。つまり雇用というものは共依存関係を作りがちなんです。そしてそのことに本人たちはあまり気づかない。それが難しいところでもあるんですが。

スギタ

ああ、確かに。僕も今日のお話を聞くまで、自分が社員に依存してるなんて思ってませんでしたから。「社員が会社に依存してる」と感じることはありましたけど、その逆は考えたことがなかったです。

安田

まあ、かといって共依存=悪というわけでもないんですけどね。そうやって支え合っていくのが人間とも言えますし。結局は程度問題で、依存しすぎないようにしながら、良い距離感でつきあっていくのがいいんでしょうね。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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