地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第89回 「雇用」という名の共依存関係

結婚や子育ても似ていると思うんですよ。お金も労力もかかるけど、それよりも喜びの方が大きいからみんな結婚したり子どもを作ったりする。ただね、人を雇うことに関して言うと、本当に喜びの方が大きいのか? と考えてしまうんですよ。

仰る意味はよくわかります(笑)。もちろんウチにいてくれることは本当にありがたいし、一緒に仕事をするのは楽しいんですけど。それが当たり前になっちゃうと、喜びよりも大変さに意識が向いてしまいますね。

まさにまさに。かく言う私も過去に離婚を経験していますが、その時は「もう結婚はいいかなぁ」って思ったんですよ。でも別れて何年も経つと、「奥さんや子どもがいてくれるってありがたいことだったんだな」としみじみ思いまして。

確かに言われてみればそうですね。まぁ、そこまで20年間人を雇い続けてきていたので、しばらくは一人でやりたいっていう気持ちがあったんですよね。「一人って楽だな」なんてのんびりやってたら、気づけば50代なかばになっていて、そこからあらたに人を雇おうっていう気にはなりませんでしたね。

そう思いますね。私がいまスギタさんくらいの年齢だったなら、また人を雇って組織を作っていたかもしれない。ちなみにスギタさんは今どういう心境なんですか? モンテドールさんでも社員さんを雇って経営されているわけですけど。

なるほど(笑)。でも確かに、社員が誰もいなくなるなんて、想像するだけで怖いです。僕、休みの日に時々一人で作業するのが好きなんですけど、それだって普段は社員がいてくれるからこその楽しみじゃないですか。

でもそういう「いなくなったら寂しい」「いないと困る」という感覚って、裏を返せば相手に寄りかかっているということでもありますよね。言葉を選ばずに言えば「依存」に近い気がするんです。社長自身が気づかないうちに、社員に依存しちゃってる部分があるんじゃないかと。

それは精神的依存だけじゃなくて、仕事自体についてもそうなんですよ。たくさん雇用していくと、望む望まないに関わらず現場は社員たちが回すようになる。そうするとだんだん、社長は社長業以外ができなくなっていくんですよ。

そういえばメルマガにも書かれてましたね。社長がいざ一人で仕事をしようとすると、すごく大変だって。

まあ、かといって共依存=悪というわけでもないんですけどね。そうやって支え合っていくのが人間とも言えますし。結局は程度問題で、依存しすぎないようにしながら、良い距離感でつきあっていくのがいいんでしょうね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。


















