第99回 「人生100回目」の達人にはできない、失敗の楽しみ方

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第99回 「人生100回目」の達人にはできない、失敗の楽しみ方

安田

芦田愛菜ちゃんっているじゃないですか。子役時代からすごかったですけど、年を重ねるごとに素敵な大人になっていって、今や「人生100回目なんじゃないか」なんて言われている(笑)。


スギタ

100回目ってすごいですね(笑)。でも確かにあの落ち着きぶりや賢さは、とても人生1回目とは思えないですよね。

安田

そうそう。その一方で、例えばコンビニで「店長呼んでこい!」なんて理不尽に怒鳴り散らしているオジサンがいたりするじゃないですか。


スギタ

ああ、たまにいますね。

安田

きっとそういう人は「人生1回目」なんですよ(笑)。だから腹が立っても責めたらかわいそうなんです。この間までタヌキだったかもしれないわけですから。やっと人間になれたばかりでルールが分からないんだと思えば、「ああ、まだ1回目だから仕方ないな」と。


スギタ

なるほど! そう思えば優しくなれそうです(笑)。その理屈で言うと、芦田愛菜ちゃんはもうベテランすぎて、「はいはい、またこのパターンですね」って人生を達観してるんでしょうね。

安田

そうそう。でね、もし今の自分の記憶とスキルを持ったまま、もう一度人生をやり直せるとしたら、スギタさんはどうします? もっとうまく生きられると思いますか?


スギタ

うーん……。少し前にドラマでもありましたよね。『ブラッシュアップライフ』っていう。

安田

ああ、バカリズムさん脚本の。


スギタ

そうです。あれも記憶を持ったまま人生をやり直す話でしたけど、娘に「パパならどうする?」って聞かれたとき、僕、即答しちゃったんです。「今の記憶を持ったままやり直すのは、正直しんどいし面白くなさそうだな」って。

安田

おっと、娘さんとの会話がそこで終わっちゃった(笑)。


スギタ

そうなんです(笑)。娘は架空の話として楽しそうに聞いてきたのに、「そんなのつまんないからやりたくない」って一刀両断しちゃって。でも、失敗しないようにそつなくこなす人生が本当に幸せなのか、っていうのは本音なんですよね。

安田

わかります。私もまた起業して波乱万丈な人生を送るかと言われたら、リスクが見えすぎて絶対やらない気がします。今の自己管理能力を持ったまま小学生に戻れば、夏休みの宿題も完璧にこなす優等生になれるでしょうから。


スギタ

そうなんですよ。株を買っておけば大金持ちになれるとか、そういう「正解」はわかるでしょうけど、それをなぞるだけの人生に何の意味があるのか。お金持ちにはなれるでしょうけど、人生をかけてそれをしたいかと言われたら全然思わないんですよね。

安田

私も若い頃はとんでもない失敗をしましたからね。社員の給料を上げすぎて会社を潰したとか、何も考えてないからこそできたバカなことばかりしてました。でも今振り返ると、バランスの取れた今の私より、その頃の無茶苦茶な私の方が世の中的には面白いことをしていたのかもしれないなと。


スギタ

確かに、失敗と成功って紙一重ですしね。

安田

そうですよ。イーロン・マスクだって今でこそ世界一の大金持ちですけど、常識的に考えれば「バカなこと」をやり続けてきたわけで。孫正義さんも「俺は豆腐を数えるように1兆、2兆とお金を数えるんだ」って言ってバイトが全員辞めたなんていう話もある。ある意味、恐れを知らない「人生1回目」のパワーが世界を変えているのかもしれません。

スギタ

人生2回目、3回目のベテランが増えると、世の中は失敗が減って平和になるかもしれないけど、革新的なことは生まれなくなるのかもしれませんね。

安田

失敗しないってことは、新しいものが生まれないってことですからね。「これを言ったら女性に振られる」とわかっていたら、恋愛のドラマも生まれない(笑)。やっぱり痛い目を見たり恥をかいたりする経験がないと、人生は味気ないですよ。


スギタ

僕は妻に怒られ続けてますけど、一向に学習しないので、まだ人生1回目なのかもしれません(笑)。

安田

いやいや、スギタさんも私も、年を取って失敗しなくなってきていること自体がある種の「失敗」なのかもしれませんよ(笑)。芦田愛菜ちゃんのように完璧に振る舞うのもすごいですが、私たちは泥臭く、タヌキあがりで失敗しながら生きていく方が性に合っている気がします。

スギタ

深いですねえ(笑)。そう言われると、今の失敗も悪くない気がしてきました。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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