泉一也の『日本人の取扱説明書』第49回「占いの国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
スピリチュアル・ビジネスの市場規模は1兆円と言われている(有元裕美子著『スピリチュアル市場の研究』東洋経済新報社)。その規模は化粧品の半分程度、ペット関連と同程度らしい。まあまあ大きな市場である。
その1兆円には神社のお賽銭、お札、お守りなどが入っているようだが、その中でも「占い」が占める割合は大きいだろう。なぜなら神社ではお賽銭よりもおみくじにお金を使い、朝のTV番組の「今日の占い」から居酒屋のテーブルに置かれたおみくじ機、web広告の占いサイトの宣伝まで日常に「占い」が入り込んでいるからだ。子供の頃流行ったビックリマンチョコも、天使か悪魔かお守りか、どのシールが出てくるねん!といったおみくじの要素もあった。
おみくじは占いの1種だが、占いには大きく3つの種類がある、相の占い(人相、手相、姓名判断、風水)、命の占い(四柱推命、占星術、動物占い)、そして卜の占い(おみくじ、タロット、易)。相・命・卜とそれぞれ挙げていくとその種類の多さに驚く。繁華街を歩けば、占い館から路上占い師、犬も歩けば・・・である。まさに日本人は占い好きといっていいだろう。
数年前、路上占いはどういうものかと好奇心で手相を見てもらった。悩みが解決しないとしつこく言っていると、パンフレットを出してきて「ここにいきなさい」と勧められた。なんと宗教の勧誘だった。路上占いを餌に勧誘をしていたのだ。興醒めである。
前にも取り上げたが、日本人は無宗教の人が多い。日本は仏教国と言われるが、「冠位十二階」「十七条の憲法」「寺請制度」といった国を治めるための手段として仏教が活用された。庶民にとっては「7つの習慣」的な自己啓発の学問であった。また「死」という陰を儀式を通じてお任せできる便利な存在でもあった。現代の仏教は法事が中心になっているのは、政治も自己啓発も他に選択肢がいっぱいあるからだろう。
西洋の宗教とは趣向が大きく違う。日本人は日常に大自然からの恵みと厳しさといった両極、つまり天使と悪魔をいつも身近に感じてきたので、荘厳で美しい聖なる場を作る必要はなかった。それよりも近所にある子供達が遊んでいるような粗末な神社に行き、お参りがてら遊び感覚で占いをする方が自然なのである。神社のトップである伊勢神宮ですら豪華さときらびやかさは全くもってない。ちなみに奈良の大仏は荘厳だが、政治的な権力を日本中に誇示するために作られている。戒律で人を縛り、正論を説法し、世俗から乖離した(聖なる?)場に閉じ込め、そこでサリンを作るような宗教が現代の日本で生まれるのは、大自然の両極からすっかり離れてしまったからだろう。
占いとは陰陽両極の間にある「遊び」である。そこには、説法という正論や戒律という縛りはない。おみくじのように偶然の出来事の中に意味を探し出す「遊び」なのだ。その意味の取り方は人生の意味をどう捉えるか本人が選ぶのと同じように自由である。「このままでは地獄に落ちるぞ」「家族が不幸せになるぞ」と脅かされ、強要されるものではない。そういった聖なる世界を悪用する輩と真面目に信じる純粋な人がいるので、こういった遊びが必要なのだ。当たるも八卦当たらぬも八卦でちょうどいい。そして、占いの結果は友達や家族と共有しあって楽しむのである。
これで分かったと思うが、占いとは聖なる世界のエンターテイメントである。エンターテイメントである映画の世界がいかにリアルに表現されていても現実だと誰も信じないように、占いの世界は信じるものではない。ただ映画を通して本質的なことや大切なことに氣付くように、占いからも人生を豊かにする氣付きを得られる。遊びから文化が生まれたように、占いという遊びも聖なる世界の文化としてこの国では醸成されてきた。
「あなたは神を信じますか?(英語訛り)」という質問に笑えてくるのは、聖なる世界を楽しむ文化、この遊び感覚が日本の文化にあるからなのだ。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。
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