変と不変の取説 第100回「最後の1ピース(後編)」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第100回「最後の1ピース(後編)」

前回、第99回は「最後の1ピース(前編)」

安田

スマホが起こした変化って、とてつもないですよね。

そう思います。

安田

コロナもインパクトはでかかったし、リーマンもでかかったですけど。スマホほどではない。

世界中の人間の行動が変わりましたから。

安田

書籍ぐらいしかなかった情報源が、とつぜん世界中の情報と繋がって。

もち歩いてますからね。ポケットに入れて。

安田

もうひとつの脳みそをつくっちゃった感じですよね。

単にメモリーが増えたということではないです。いままで常識だった「知識のストック」にエネルギーを使う必要がなくなった。

安田

確かに。

スマホによって「知識」の時代から「意識」の時代に変わると思います。

安田

意識の時代?

知識のデバイスがあるので、意識によりエネルギーを使えるようになる。藤井聡太くんはそれをやってるんだと思います。

安田

へぇ~。将棋のプロは「記憶力の化け物」と言われてますけど。何百手と記憶するのでメモリの容量がとてつもない。それでもメモリとして使ってないってことですね。

知識ではなく意識を使ってると思います。

安田

単に計算の速さで勝負してる棋士ではないと。

高次元に意識を上げてるんだと思います。

安田

高次元に意識を上げる?

2次元の世界でグルグル遠回りする必要がある道も、3次元になったら飛行機でピャッと行けるじゃないですか。

安田

障害物を飛び越えるってことですか?

1個次元が上がると最短でいけちゃうってことですね。だから意識の次元を上げることにエネルギーを向けてるんだと思う。

安田

じゃあ「記憶力の天才」ではなく「意識の次元をあげる天才」?

「意識の次元を上げていくと、実は人工知能より優れてるんだよ」ってことです。

安田

確かに藤井くんは人工知能が読まない手を読んだりしますよね。

まったく別のものを使ってるんですよ。

安田

私たちのような凡人も、知識じゃなく意識を使うようになるんでしょうか?

私はそう思いますね。

安田

それはどういう理由で?

人工知能は計算が早いですけど、めちゃくちゃエネルギーを使うんですよ。

安田

確かに。たくさん電気を使ってそうなイメージですね。

でも脳はそこまで使ってない。とくに意識というものはカロリーレベルでいうとめちゃくちゃ少ないと思う。

安田

頭を使ったら腹が減りますけど。

スーパーコンピュータの比ではないです(笑)ものすごい電気を使いますから。

安田

ほんのちょっと前まで情報って有料でしたよね。新聞を買ったり、ビジネス雑誌を買ったり。

そこに優位性がありましたから。

安田

みんなが知らない情報を知ってる人がめちゃくちゃ有利だった。ところが今はほぼ同時に、ほぼ無料で、情報が行き渡ってしまう。

情報をどういうふうに磨いて二次情報に変えるか。そこが価値となります。意識の次元が高い人はそれができる。

安田

Cloudってあるじゃないですか。たくさんのコンピュータをつないでCloud化してる。

はい。

安田

コンピュータができる前って、たぶん人間の脳みそがCloudに近いものだったと思うんですよ。

面白いですね。

安田

文字や会話で脳みそ同士が繋がってて。でもスマホという外部メモリができて必要なくなった気がするんです。

脳みその使い方は間違いなく変わるでしょうね。

安田

デバイスから情報を「どう取り出すのか」という役割に変わっていくと。

それが意識ですよ。

安田

もうメモリとしての役割は必要なくなるんでしょうか。

見えないものを見ていくのが人間の役割だと思ってまして。いま物質的な、目で見るってことに限界がきてるじゃないですか。

安田

物質世界の限界ってことですか。

目で見るところと違う次元の何かを、人間がやるようになる。知識を入れない分そっちのほうを磨いていくというか。

安田

メモリとしてしか脳みそを使えない人は、人間としての必要性がなくなると。

そう思います。

安田

でもいまだに一生懸命暗記し続けてますよ。年表とか。英単語とか。

そういう存在はいらなくなってくる。

安田

これまでは知識が多い人ほど出世する社会でしたけど。

その社会は終わりですね。もうとうに終わってる。

安田

意識の時代って、分かりやすく言うと何ですか?

他の人が遠回りしてるところを、最短でピュッと行ってしまう発想とか。

安田

「これを勉強したら意識が上がるよ」というアドバイスはありませんか。

自分がいちばん探究したい動機にアクセスするってことですね。

安田

ビジネス書の成功法則なんかに意味はないと。

意味ないです。自分の動力源にアクセスしないと上昇しないんですよ、意識が。

安田

まずは興味のあることを見つけ、そこを探求するために情報を活用すると。

自分に興味があるところだけピックアップしていけばいい。マイテーマからぜんぶ学習が始まる。

安田

なるほど。それが藤井くんの場合は将棋だったと。

はい。いろんな分野で同じことをやる人が出てくると思います。

安田

逆に変な知識とかは詰め込まないほうがいいですか?

真っ白のほうが実はいい。

安田

親や先生はどうしたらいいんですか?真っ白ってわけにもいきませんけど。

「教育」の場を「学習」の場に変えるってことだと思います。

安田

みずから学ぶということですか?

学びたくなる動機づけをする。

安田

とはいえ「好きに使っていいよ」ってスマホを渡したら、ゲームばっかりやりそう。

放置しておくだけじゃダメですね。子供を観察して、すごく興味関心のあることが見つかったら「それ好きなん?」「だったらこういうのがあるよ」「こんな本あるよ」「こんな人いるよ」って、つないであげたらいい。

安田

なるほど。教えるんじゃなく繋いであげる。それが教育者の役割になると。

そうです。コンシェルジュです。学習もコンシェルジュと化していく。

安田

学校はどうなるんですか?

学校に行きたい人は行けばいい。私はそれとは違う「学習の世界」をつくりたいだけ。

安田

それが場活ってことですね。

そうです。

安田

わかりました。長きにわたり100回の対談ありがとうございました!

ありがとうございました!


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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