第159回「ヤパンの国(第1話)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

ヤパン国の辺境の村「タトイ」に一人の子が生まれた。

農業を営む夫婦は待望の子を授かったことに心から感謝し、愛し、大切に育てた。子の名はアナン。家は貧しいながらも、両親の愛をたくさん受けて、すくすくと成長した。貧しくてもいつも前向きで、家族を最優先にし、体をはって守ってくれる父と、優しくいつも自分を受け入れてくれる母をアナンは心から愛し、誇りに思っていた。

アナンには生まれながらに人とは違う特殊能力があった。他人の考えと感情が読めるのだ。他者の心の内が手にとるようにわかる。アナンは相手が何を求めているのか悩んでいるのか自然とわかる、その能力を使って、アナンは他人の心の内をいち早く汲んで、先手を打って応じた。アナンに出会う人たちは、知らないうちに心が満たされ、悩みから解放された。

次第にアナンは周囲から好かれ、その輪が広がり、タトイ村一番の人気者になった。噂を聞きつけて、遠くの村からアナンに会いに来る人まで出てきた。一方で両親はそんなアナンの存在を遠くに感じるようになり、また裏では多くの人から嫉妬を買うようになっていた。

「大切な人がアナンにばかり気が向いている。アナンに取られてしまう」

そうした不安、怒り、恨みが徐々に積み重なっていき、アナンは陰で足を引っ張られることが目に見えて増えてきた。

アナンが12歳になったある日、『アナンは悪魔の能力を使って、村人を操っている』、そんな手紙がヤパン国の治安部に届いた。治安部は早速、ことの真偽を確かめるため、数人の部隊を村に送り込んだ。部隊を待ち構えていた手紙の主は、アナンに反感を持つ仲間の集まりに部隊を連れて行き、大いにもてなした。その集まりの中に先祖代々村の教会を引き継いできた聖職者パルパがいた。

パルパはアナンに対して不満があった。なぜなら村人たちは、教会よりもアナンに相談に行くようになり、神の加護を村人に授ける機会が日に日に減っていたからだ。

「アナンは悪魔の力を使って村人を誘惑している。放っておくと村の脅威、いやヤパン国の脅威になりますよ。今のうちに手をうっておかないと大変なことに!」治安部隊はパルパの話を聞いて、すぐさま国に戻って国王に報告をした。国王は事態を重く見、50名の一個部隊をアナンの家に派兵した。

そんなことを知る由もないアナンの両親は、訪れた部隊を見て腰を抜かした。完全武装した50人の迫力に、驚きと恐怖のあまり声も出ない。「お前の子供は悪魔の力を持っているので連れていく。これは国王の命だ」。部隊長の低く力強い言葉に、両親はあっさりとアナンを差し出した。

「父さん、母さん、助けて!」アナンは抵抗しながら叫んだ。

しかし、あの頼もしい父も優しい母も下を向いて目をそらしていた。アナンは両親の心を読んだ後、全身の力が抜け、言われるがままに家を出た。

そして、ヤパン国が厳重に管理する隔離施設「ノザン」へと送られた。

(第2話へと続く)
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日本人は人気者や成功者に「嫉妬」しやすい。その「嫉妬の仕組み」を解説編として、facebookグループ「場活王」に掲載します。

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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