泉一也の『日本人の取扱説明書』第10回「ドジョウの国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第10回「ドジョウの国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

山間地はこの酷暑でも朝方は涼しい。それは、木と大地はアスファルトやコンクリートと違って日中の熱を溜め込まないからだ。太陽がギラギラと照る日でも、木の幹を触ってみたら、体温より低いぐらいである。ちなみに夏はアスファルトの表面温度が70度近くになるが、葉の表面は34度程度。蒸散といって汗のように水分を葉の表面から蒸発させているから涼しくなる。森が減り、コンクリートが増え、大地がアスファルトになれば、蒸散が減り日中の熱を溜め込むので熱帯夜になる。さらにエアコンの熱が拍車をかける。これがヒートアイランド現象である。

東京オリンピックに向けてマラソン選手が熱中症にならないよう、走行コースのアスファルトに熱を蓄積しない樹脂をコーティングするという。花粉症もアスファルトに落ちた花粉が何度も巻き上げられる「再飛散」があるから、都会に花粉症が多いらしい。1964年の東京オリンピックの時とは環境が大きく変わっている。

「コンクリートから人へ」という話ではなく、日本は森林が7割でありその恩恵を得てきたということ。日本の大地では農作物がすくすくと育つ。もちろん雑草もすくすく育つ。それは、広葉樹の森林では大地が腐葉土つまり発酵の土壌となり、その土壌を通った栄養素の高い水が川に流れその川の水を田畑に引いているからだ。時には洪水で森林の土砂を大量に平地に供給する。農耕民族にとって大地の恩恵は計り知れないが、アスファルトが日常になったことで土壌の価値が感じられなくなった。それに合わせたかのように田んぼにいたドジョウも姿を消し、ドジョウすくいは文化遺産のようになっている。

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