第139回 「正装」と「普段着」を使い分ける庭づくり

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第139回 「正装」と「普段着」を使い分ける庭づくり

安田

中島さんはご自身のお仕事を「ガーメントデザイナー」つまり家に着せる服のデザイナーと表現されていらっしゃいますよね。服に正装と普段着があるように、庭作りでも使い分けがあるんでしょうか。


中島

そこは強く意識しています。平屋など重厚感のある建物なら、外から見たときにもその威厳を損なわないよう、骨格のしっかりした構造物や門柱を配置して、言わば「よそ行きの正装」の佇まいを整える。

安田

ほう、なるほど。外から見たときに「あの重厚な建物に、この軽い門柱は合わないんじゃないか」と違和感を持たれないように、建物の顔に合わせた構造物をデザインするわけですね。


中島

仰るとおりです。塀の高さや全体のバランスを、建物のラインと似た骨格に合わせて作ります。ただ、外から見たときに中の全貌が見えすぎないように、という点は注意して設計していますけれど。

安田

ふむふむ。ちなみに家の中から庭を眺めたときの「普段着」の部分、つまり住む人がリラックスできる空間作りというのは、外から見る庭の設計とは具体的にどう変えているんでしょう?


中島

中から見たときには、柔らかい線で空間が広がるように工夫しています。外の景色を完全に見えなくするのではなく、少し外側とつながっていた方が心地よく感じるものなんです。

安田

ああ、確かに。高い壁で囲い切ってしまうと、外から見えない安心感はあるかもしれませんが、家の中にいると息苦しくなってしまいそうですもんね。適度なつながりが大切だと。


中島

そうなんです。壁で完全に囲われた中にいるより、ある程度透けて見えた方がリラックスできる。そしてそのためには、庭に植える木の種類や「枝の細さ」、そして「透け感」がとても大切になってきます。

安田

なるほどなるほど。確かに太い幹や葉が密集した木が窓のすぐ外にあると、視線が止まってしまって圧迫感がありますよね。具体的にはどんな木を選んで植えるのが効果的なんでしょう?


中島

できるだけ線が細く、風にふわっと揺れるような軽やかな樹木がいいですね。逆にキンモクセイのように葉がぎっしり詰まってしまう木は、庭の中心には置きません。

安田

ははぁ。キンモクセイは香りは良いですが、確かに向こう側は全く見えなくなりますね。そういう木は、庭の中ではなく外との境界線に目隠しとして配置する方が向いているということですか。


中島

ええ。視線が完全に止まってしまうとリラックスできませんから。庭の中に植えるならナツハゼなどがおすすめです。枝のラインが細くて抜け感があって、幹が太くなりにくい。秋には真っ赤に紅葉するので、季節感も楽しめますよ。

安田

いいですね〜。そういう木が家の中から見えたら、すごくリラックスできそうです。ツツジのような葉っぱも花もぎっしり詰まっている木は、庭の中には向かないんでしょうね。


中島

それが、適度な透け感のあるツツジもあるんです。ミツバツツジというんですが、そこまで茂らないのでいいと思います。

安田

へ〜、そうなんですね。ツツジって街路樹や公園などで丸くお団子のように刈り込まれているイメージですけど、そうじゃないものもあると。


中島

ええ。ただ街路樹に植えられているツツジも、本来はあそこまでぎっしりしているわけではないんですが、刈り込んでわざとあの形にしているんです。でも、今の雑木ブームの影響か、自然樹形のツツジの良さが見直されてきていますけどね。

安田

ツツジはあんな風に丸く育つ木なんだとばかり思っていました。ちなみになぜあんな風に、揃いも揃って丸くぎっしりと刈り込むようになってしまったんでしょうか?

中島

一番の理由は「管理が楽だから」だと思います。伸びたところを電気ノコギリのようなものでガーッと切ればいいだけですから。誰にでもできる手軽さが、丸く刈り込まれる理由でしょうね。

安田

坊主頭にするようなものですね(笑)。自然の樹形を活かす剪定に比べたら、団子みたいに切る方が圧倒的に楽ですもんね。

中島

そうですね。個人的にはあれが主流になってしまっているのは残念ですけど。私が手入れに入らせていただいたお宅では「これは自然に伸ばした方が絶対に見栄えがいいですよ」とお伝えしています。

安田

なるほどなぁ。誰にでもできる効率的な管理ではなく、その木が本来持っている一番美しい姿を引き出してあげる。それこそが、家という建物にふさわしい「上質な普段着」を仕立てるプロの技なんですね。

中島

ありがとうございます。剪定の仕方ひとつで、抜け感をどれくらい作ってあげるかも変わってきます。管理のしやすさも大切ですが、それ以上に「そこにいて心地よいか」を忘れてはいけないなと。

安田

本当ですね。庭の主役である木々が自然体で伸び伸びとしている。そんな風景が窓の外に広がっていれば、住んでいる方の日常も豊かでリラックスしたものになる気がします。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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