第372回 解雇事案から考える雇用契約の未来

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第372回「解雇事案から考える雇用契約の未来」


安田

東大の職員が解雇されたニュース、見ました?

久野

はい。3ヶ月間無断欠勤して懲戒解雇ですね。

安田

本人は「在宅で勤務をしていた」と主張しているらしいですけど。ずっと「出社しろ」と言われてたみたいで。在宅勤務って会社のOKがなくても出来るんですか?

久野

いや、出来ないです。「どこで仕事をするか」も含めて労働契約の一部なので。

安田

そうですよね。

久野

会社に来いって言われたら、これは基本来なきゃいけない。その権利が会社にはあります。

安田

この方はコロナの時に一時的に在宅勤務になって。その後2023年に業務上支障のないケース以外は在宅勤務が認められなくなったみたいです。

久野

この方の上司は在宅勤務を認めなかったということですよね。

安田

はい。にも関わらず本人が「在宅勤務です」と主張し続けた。こういうケースの場合は解雇出来るんですか?

久野

これは服務命令違反ですからね。「会社に来い」って言われているのに来てないので。

安田

在宅で仕事していたかどうかは関係ないと。

久野

関係ないと思います。

安田

なるほど。さすがにこういうケースでは解雇出来るってことですね。日本の法律でも。

久野

有効かどうかはまだ分からないです。この後また本人が裁判するかもしれないので。

安田

裁判の結果「東大でもう一度雇用しなさい」となるかもしれない?

久野

たとえば契約に「リーモート勤務が入っていた」と本人が主張する場合とか。あるいは在宅でもまったく業務に支障がなく、来てないけど全く問題がなかったとか。

安田

そういう主張もあり得るわけですね。

久野

むしろ「成果が上がっている」となれば解雇不当になるかもしれないです。ただ、普通に考えて責務が果たせてなかったので、厳しいんじゃないかなと思いますけど。

安田

イーロンマスクも「出社しろ」と社員に言ってましたけど。出社がルールだと決まったら従業員は絶対に従わないといけないんですか?

久野

元々の契約が大事で。たとえば「全国どこでも転勤があります」という契約であれば、異動と言われたら異動しなきゃいけない。それと一緒で「出社もあります」という契約なら、会社に来いと言われたら来なきゃいけない。

安田

なるほど。一時的にリモートになっていたとしても、「それは無くなりました」という場合は会社に行かなくちゃいけないと。

久野

行かなきゃいけない。逆に「在宅であなたを雇います」という契約であれば、来いと言われても拒否する権利はあります。

安田

つまり契約の中身次第だと。

久野

そうです。雇用契約の法律も変わりまして、就業場所は必ず明示しなきゃいけないんです。

安田

書かなきゃいけないんですね。

久野

逆に「在宅OK」しか書いてなかったら会社は負けます。

安田

なるほど。

久野

今は会社もリスクを恐れて「上司が許可した場合には在宅を許します」としか書いてないと思います。

安田

就業規則をちゃんと見直さないといけないですね、会社は。

久野

はい。リモートワークを導入するタイミングでリモートワーク規定は絶対に作った方がいいです。許可制なのか、労働契約の一部かで全然違いますので。

安田

知らなかったら恐ろしいですね。

久野

恐ろしいです。

安田

じゃあ就業規則は厳しめにしておいた方がいい。

久野

しっかり作っておいた方がいいと思います。ただリモートを完全に拒否すると辞める人も出てくるので。会社としては認めざるを得ない部分があると思います。

安田

たとえば在宅で仕事はちゃんとこなしていて、業績もしっかり上げている。こういうケースでも会社から出社しろと言われたら行かないといけない?

久野

行かなきゃいけないです。基本的には会社の業務命令に従うのが労働契約なので。

安田

なるほど。働く場所に関しては「会社が指示した場所」で労働を提供しなくちゃいけない。

久野

元々労働契約というのは「成果を出すこと」にフォーカスしているわけじゃなく、時間を買っている契約なので。

安田

そうか。会社員は時間契約ですからね。じゃあ「成果を出すからいいでしょ」って人は、業務委託契約にするしかないってことですね。

久野

そうですね。会社としてはもちろん成果を上げて欲しいんですけど、契約上買っているのは「労働時間」ということになりますから。

安田

成果じゃなく、あくまで時間を売っているのが雇用契約だと。

久野

そうです。会社は「時間を買っている」というのが正しいです。

安田

買っている時間に関しては「指定した場所で、指定した労働をする」義務があると。この人は指定した時間に指定した場所に来なかったから義務違反になるわけですね。

久野

はい。基本的な考えとしては正しいです。

安田

逆に言われたところに行って仕事をしていれば、成果が上がらなくても会社は解雇出来ないってことですよね。

久野

そういうことですね。だから雇用契約も成果連動報酬に移行していかないといけない。短時間でパフォーマンスを上げる人はどんどん報酬を上げて、逆にパフォーマンスの悪い人は下げていく。

安田

最終的には雇用契約も成果連動型になっていくと。

久野

そうせざるを得ないです。でないと優秀な人が辞めて、のんびり仕事をしたい人だけが残っていくので。経営が成り立たないですね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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