泉一也の『日本人の取扱説明書』第10回「ドジョウの国」


ドジョウがいなくなったように、土壌はあるがその存在が消えた。子供の頃、土団子を作ったり泥んこ遊びをしたりと土遊びをかなりしたが、土に触れることで何かを感じ取っていたはずである。土を通して大地の温かさを感じていたかもしれない。ちなみに森林の土には1グラムあたり100万近い微生物が住んでいるといわれている。それも多種多様な微生物である。我々の腸も1000種1000兆の多様な微生物が住んでいて調和を保っており、免疫系との関係が深い。それを腸内フローラというが、大地も土壌フローラである。ちなみに昔は人間の糞尿を田畑の肥料としていたが、腸内フローラと土壌フローラがここで繋がっていた。土遊びもそうだが、こういった繋がりが消えたことで、アレルギーをはじめとする免疫系の病気が増えたのかもしれない。

土壌と日本人の関係は深く、社会の土台となっているものを風土という。組織文化ではなく、組織風土。組織文化改革とはいわない。組織風土改革という。日本国を統治するために国が力をかけて編纂した「風土記」という書があったように、風土というのは日本社会にとって原点となる大切なものである。

組織風土とは、組織の土壌のことである。土壌が日本の気候、立地、山や川など特別な条件から豊かになったように、日本人がすくすくと育つ組織風土もある。今多くの会社組織では、ハラスメントが横行し、アレルギー体質となって会話に関係性に過剰な反応をする。なるべくアレルギーが起こらないようにと、防衛的な言動が増え、農薬をまいて病害虫や雑草を駆除するがごとく、コンプライアンス、コンプライアンスという。そういった組織では、根が張らないように若い人は定着せず、作物が育たないように人は成長せず、木々が枯れるように気枯れした40代と50代がいる。

一度土壌が荒れたとしても、土壌づくりに手を入れれば豊かさは復活し、作物は育つ。組織の土壌づくりを始めるには、「風土」を大切にすることから始めればいい。風土とは何か。国づくりの基礎が風土記であったように、どんな人が職場にいて、どんな仕事があって、どんな顧客がいて、どんな歴史的物語があるのかを紐解き皆で共有し大切にすればいい。風土記を編纂せよと言えるのは、組織のトップである。組織のトップが、土壌づくりの部署、土壌づくりの委員会をたちあげて推進する。これこそトップにしかできない仕事である。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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