第195回「日本劣等改造論(27)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― 学習の動機づけ―

OECD(経済協力開発機構)の2019年5月の調査によると、学習到達度ランキングで日本人は1位である。学習到達度とは、15歳時点での「読解力」「数学力」「科学力」で測られたもの。OECD全体の平均点が486点で、日本は529点。データのある39カ国で偏差値を計算してみると63.7であった。飛び抜けているわけではないが、学力は相対的に高い。

ひらがな、カタカナ、漢字、オノマトペ(擬音語・擬態語)、敬語といった子供から大人までが使える多様性あふれる言語を使っていることで思考力・表現力が高まりやすいことと、守破離といった「型」をまず守るという文化が根付いているからこその1位であるように思う。

15歳で身につけたこの学力は、果たしてその後の人生で活かされているのだろうか。素晴らしい基礎体力と運動神経があったとしても、それを活かす競技をしなければ宝の持ち腐れになる。日本人の学力も、宝の持ち腐れになってはいやしないか。

学力は「探求したい!」という内発的な動機によって花開くが、その学問を探求する大学で、内発的動機は解放されているだろうか。私は年に数回程度、大学でコミュニケーション系の特別講座をさせてもらうが、60分ぐらいたったところでやっと学生のエンジンが掛かり始める。結果、残り30分しか学ぶ時間がないのだ。つまり60分間は、私は動機づけを目的としたトークをし、笑いをとり、問いかけ、対話のゲームやワークをしているのだ。

仮に、その動機づけが必要ないとしたら授業は3倍生産性が高まるということになる。

多くの学生が大学受験を経て大学に入学した時点で、内発的動機が失われている。私もそうだったように。ゴールが大学入学だからだ。仮に、15歳の段階で、大学へ行くために学習するといった動機ではなく、「探求したい」という学びの動機づけがなされていたなら、大学の生産性は3倍高まる。2021年の世界大学ランキングでは200位以内に日本の大学は2校で、最高が東大の35位であるが、3倍の力を引き出せば15歳の頃に戻るかもしれない。

日本はGDPに占める企業の能力開発費の割合が0.1%。例えば、売上1000億企業で1億円。アメリカは2.08%なので1000億企業で20億円。ちなみに欧州平均は1.5%。極端に日本企業は社員に教育投資をしていない。この原因は、大学での学習の生産性が低すぎて、同じように学習の場を作っても仕事に活かされない、売上利益につながらないと思っているからだろう。

結果、OJTに頼ることになり、先輩がお手本となるので、年功序列を促進し、さらに先輩を超えないからイノベーションが生まれにくい。以前は身近にすごい先輩がいて、イノベーションの機会に後輩を巻き込んでいたが、昨今はそういった先輩ほど早く会社に見切りをつけて辞めていくので、OJTは成長の阻害要因となってしまった。

日本人には学びの場を与えるのではなく「学びたい!」氣持ちを引き出す内発的な動機づけの機会を与えればいい。基礎体力があるからこの競技に燃えたいと思わせればいいのだ。そのために必要なのは3つある。動機づけの専門家をつけること、動機づけられる外の環境に触れさせること、組織内で動機付けをし合える関係づくりをすることである。

ちなみに動機づけはセンスが必要な高い技術なので、そのスキルを社内で養うのは無理がある。コーチング研修をしてマネージャー全員にそのスキルを身に付けさせようとしているが、時間とお金の無駄だろう。もしするならセンスのある人だけを選抜して実施すればいい。

教育投資をするなら、内発的動機づけの専門家を個別コーチにつけ、さらに広い世界を旅するがごとく、様々な面白い世界に触れさせ、そこでの氣づきを組織内で共有、共感する場をつくったらいい。すごく簡単なことなのに、多くの家庭、学校、企業でなされてないのは「人を動機付けたい!」という動機づけがされてないから。

もしこのコラムを読んで「学習の動機づけをしたい!」と火がついたなら、お金がある人は教育投資をし、広い世界を持っている人ならハブになって橋渡しをし、センスがある人はコーチになればいい。そして関係づくりをしたいのであれば場活師になればいい。すごい先輩がここにいますよ。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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