「ハッテンボールを、投げる。」vol.2 執筆/伊藤英紀
前回は、「よく働く経営理念」をつくるためには、経営理念をはじめ、理念を起点とした事業ビジョンや仕事ビジョン、行動指針に、いかに「社員の内発性」の引き金を仕掛けるか。そこが肝になるという話をしました。内発性とは、要するに、「私の仕事は社会に喜びを提供できるし、会社のビジョン実現において重要な役割をになえるし、自己成長の方向もはっきりしていて、やりがいがある。なかなか楽しいぞ」と社員が感じることです。
「経営理念に社長の想いをこめよう!」という提案者が、世の中にはけっこういます。しかし、社長の想いをメッセージ化し、社員が感動し共感しても、1円の利益も生まないことが多い。そりゃそうです。社長は内発性を発揮して、社員に想いを伝えましたが、社員はまだ、単にその「聞き手」に過ぎないのですから。
経営理念づくりは単なる経営者の想いの共有化でもなければ、理念に基づくインナーコミュニケーションは単なる一体感づくりでもない。極めて重要な『論理的経営戦略』なのです。だからめんどくさい理屈(合理性)が必要です。少しめんどくさい話をしますが、聞いてください。
人は、➊【価値合理性】➋【役割合理性】❸【限定合理性】の3つで動く生き物。この3つの確立で、「自分がやること」に納得しなければ、人のパワーは大きくなりません。
では、➊【価値合理性】とはなにかというと、「うちの会社の事業サービスは、社会のためになるね。他社にできないやり方で人を喜ばせることができるね」と自社の社会価値の説明が理にかなっていて、社員が納得できること。社会的に有用かどうかわからない会社で、働きたい人はそうはいない。
だから経営理念や事業ビジョンとして、他社と何が違うのか。社会に提供できる喜び、顧客が得る具体的な利点はなんなのか。何を強みに市場で独自のポジションを築き、安定や成長へと至るのか。その合理性をわかりやすく言語化しなければなりません。
➊【価値合理性】とは、「この会社で働いていたい」という動機付けであり、ここにいることの意味やプライドです。しかしそれだけでは、「働く価値がありそうだぞ」と気持ちは動いても、カラダは動きません。自分の力をどう使えばいいか、具体的に動く方向がわからないからです。
そこで次は、価値合理性を、➋【役割合理性】へと落とし込む必要があります。役割合理性を簡単にいうと、「あ、なるほど。私が担当する仕事には、経営理念や事業ビジョンを実現するうえで、欠かせない役割と意味があるんだね」と、目の前の仕事を、めざす社会的価値とつなげることで、社員の視界をぐっと広げるのです。
たとえば、A地点からB地点へ重い箱を移動させる役割。視界が狭くその目的も意味もわからなければ、それは人にとって苦役以外のなにものでもない。でも、視界を広げてその仕事を社会とつなげ、「人々をこう喜ばせることができるんだよ」と道理を伝えれば、「そういうことなら、がんばってみるか」と、社員たちも腹落ちする。社員たちに➋【役割合理性】が生まれ、ようやく動き出せるという流れです。